冬木柊翠(しゅうすい)は愛されたい

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「おはよう、冬木くん」 「やあ、おはよう。望田さん」 僕は冬木柊翠、中学生3年生。僕は都内でも有名な私立中学に通っていた。 校門で挨拶してくる女の子に笑顔で挨拶を返すと、顔を赤らめて校舎に入っていく。 その後ろ姿を見ながらくすくす笑った。 僕は控えめに言って美しい。 中性的な美貌、女の子のように細くて白い手足、お母さんゆずりの色素の薄い肩までかかった緑色の髪の毛。 僕の見た目に勝手な幻想を抱いて胸を高鳴らせる姿がとても滑稽だ。 皆僕がちょっと微笑めば喜んでくれる。 僕がちょっとその気を見せたら皆僕のことを好きになってくれる。 僕のことをもやしっていじめてたガキ大将だって僕がちょっとシャツをはだけさせて誘惑したら次の日僕を見ると股間を抑えてトイレに駆け込むようになった。 僕のことをよく皆の前で殴ってた体育の先生だってこっそり校舎の影に連れ込んでアレを舐めてあげたらすっかり優しくなった。 僕のことを好きにならない人なんていない。僕の思い通りにならない人なんていないんだ。 今日も僕を美しく産んでくれた神様とお母さんに感謝しながら、意気揚々と校門をくぐった。 「じゃあこれからは自由行動だ。全員4時までにここに戻ってくるように」 ある日、僕の学年で校外学習があった。 といっても僕たちは受験生だから場所は都内の臨海公園なんだけど 「ねえ冬木くん!私と一緒に行こう~!」 「あー!あんただけずるいわよ!冬木くん、私と行こうよ~。」 あっという間に僕はクラスの女の子達に囲まれてしまった。 困ったな、今日は2組のサッカー部のキャプテンとデートする予定なんだけど ちらっと周りを見ると、一人だけ誰のグループに入ってない男子を見つけた。 ガタイのいい体に精悍な顔立ち、短髪。学ランを気崩していて、中から赤いシャツをのぞかせている。 あの子はたしか、桜田春風くんだ。 今年初めて一緒のクラスになって話したこともないが、今時珍しい不良で一匹狼。誰かと一緒にいるところをあまり見たことがない。 「桜田くん!僕たち今日一緒に回る約束だったよね?」 「はっ?」 満面の笑みで女の子達の壁からぶんぶんと手を振ると、桜田くんは体をびくりと震わせながらこっちを見る。 「ええ~?なんで冬木くんが桜田と?」 「ありえな~い!絶対うちらと行った方が楽しいよ!」 「ごめんね。でも先約だからさ。ほら、桜田くん行こう」 「お、おい……」 女の子達をかき分けて桜田くんの手をとると、僕たちはぐいぐい歩き出した。 「助かったよ!他に約束があったのに抜けるに抜けられなくてさ~。」 僕たちは海に面したベンチに座って休憩していた。 「別にいいけどよ。それより約束の方行かなくていいのか?」 「まだいいんだ。すぐに行くと怪しまれちゃうし」 要領を得ていない桜田くんをよそに僕はさっき買ったりんごジュースを一口含む。 そういえば桜田くんはまだチェックしてなかったなあ。 不良だから遊び慣れてそうだし、僕がちょっと誘えばのってきそうだ。 「それより、何かお礼しないとね。何がいい?」 「いや、いいよ。礼なんて」 「遠慮しなくていいよ。僕、なんでもしてあげるから」 周りに人がいないことを確認して、桜田くんの耳もとで囁いて下腹部を撫で上げる。 「そう、なんでも、ね。」 僕の手の中で桜田くんはあっという間に勃起した。 桜田くんの顔は名前のように桜色に染まっている。 うーん、ここまで簡単だとちょっとつまらないな。 そう思った矢先、桜田くんは僕を突き飛ばして立ち上がった。 何が起こったかわからずにいると、桜田くんは肩を震わせて叫んだ。 「ふざけるな!俺はこんなこと頼んでない!」 「何を怒ってるの?君だってその気じゃないか」 股間を指差すと桜田くんは鞄で局部を隠してしまった。 「こ、これは……!とにかく俺はお前とこんなことするつもりはない!」 「どうして?君が僕に何をしても僕は誰にも言わないよ。さっきも言ったけどこれはただのお礼だから、深く考えないでよ。」 「そ、そんな理由でお前は誰とでもこんなことをするのか!?」 「うん」 桜田くんはさっきから何を言ってるんだろう。桜田くんは気持ちよくなれるし、僕は満たされるし、いいことばかりじゃないかじゃないか。 桜田くんはキッと僕を睨み付けた。 「俺は好きな人以外とこんなことはしたくない!誰とでもこんなことができるお前なんか、大っ嫌いだ!」 桜田くんの言葉は僕の心をハンマーで殴り付けてくるようだった。 それだけ言うと桜田くんは黙ってどっか行ってしまった。 「ふざけんなよ……」 僕で立てたくせにいい子ぶるんじゃねえよ。 お前だって僕の相手してきた男と一緒だ。 僕を獲物を見るような目で見てきて、その実僕の手のひらで転がされる哀れな豚野郎なんだよ。 「僕にあんなこと言ったこと、絶対後悔させてやるからな。」 ギリギリと爪を噛んだ。 するとスマホからピロンと通知が来る音がする。 『今から出てこられる?』 デートする予定だったサッカー部の子だ。 『勿論!約束した場所で!』 僕の気分はうってかわって高揚していた。 気分が悪いときは気持ちいいことして忘れるのが1番だ。 僕は桜田くんのことは忘れることにして、デートの待ち合わせ場所にスキップで向かった。
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