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「な、んで、そんなこと……」
「お父さんが僕としたいからだよ。最初はお母さんに似てた僕をお母さんの代わりにしてたと思うけど、今は僕を可愛いって言ってくれる。それからお父さんは優しくなった。殴らないし僕の欲しいものなんでも買ってくれる。僕が体を差し出すだけで、皆僕を愛してくれるんだ」
ニコニコして答えると、桜田くんの目からポロッと雫が落ちた。
そうかと思うと桜田くんはボロボロと泣き始めて、情けない声を上げて机に突っ伏した。
「何泣いてるの?」
桜田くんに近寄ると、桜田くんはぐしゃぐしゃになった顔を上げた。
「ごべんな、冬木……。おで、なんにもしらだぐで……おで、なんにもしでやらなぐでごめんな……!!」
この人は何を謝ってるんだろう?
桜田くんは涙をぐしぐしと拭うと、そのまま僕を抱き締めた。
「冬木、お前そんな家に帰らなくていい!!いや、俺が帰さねえ!!今日からここがお前の家だ!!」
「何言ってるの?中学生が二人で暮らしていけるわけないじゃん」
「金は問題ない!母さんが送ってくれる仕送りで俺たち二人ぐらい暮らしていける!学校だってもうすぐ卒業だ!そしたら二人で遠くの学校に行こう!一緒に住むんだ!俺頑張ってバイトするから!」
「学校はどうするの?突然家出なんかしても学校にお父さんが来たら僕は連れ戻されるよ。」
「学校なんて行かなくていい!お前なら出席日数足りてるだろ!頭もいいし勉強はこの家ですればいい!」
「桜田くん馬鹿なの?そんなこと上手くいくはずないじゃん」
「ああ、俺は馬鹿だよ。けどな!今までお前がそんな思いしてたのに気づかなかったことの方がもっと馬鹿だ!お前の父親が連れ戻しに来たら、殺してでもお前を守る!」
馬鹿もここまでくると立派だなあと素直に感心する。
今ここでこの腕を振り払えばいい。
そしたらいつも通りでいられる。
お父さんも怒らせないし、皆が僕に優しくしてくれる。
けど、桜田くんはもう僕の手を握ってくれなくなるんだろうか。
もうあの温もりを感じられなくなるんだろうか。
「いいよ」
何故か僕は桜田くんの言葉に頷いていた。
「ほ、本当か!?」
「うん、僕はもうあの家に帰らない。」
僕の言葉を聞いた桜田くんは、さっきよりきつく僕を抱き締めた。
「ありがとう…!ありがとう!!」
こうやって抱き締められてる方が、お父さんに抱かれてるより安心する。
そんなことを考える僕は馬鹿なんだろうか。
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