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ぺしゃっ、と音が落ちた時、
周平の身体はびくんと跳ねた。
いつの間にか寝ていたらしい。
分厚い褞袍をかき合わせ、
年越し特番を流すテレビをぷつりと消す。
家の中は静かだ。
周平がいる居間以外に灯りもない。
大晦日、いやもう新年だというのに、
親はいつもどおりの時間にとっとと寝てしまった。
恒例だったトランプを手に「やらんのか」と寝巻きの親父を引きとめたら、
「もう夜更かしは無理じゃ」と大欠伸。
居間を出ていく背中は去年より少し小さく見えて、そうして周平の今年の年越しはテレビだけが相棒になった。
古い家壁は風にがたがた揺れ、
外の物音も難なく通す。
雨でも降ってきたかと思っていると、
またぺしゃりと音がした。
ぺしゃっ、ぺしゃり。
よく聞けば規則的に続いていて、なんだか背中に濡れこんにゃくを当てられた気分になってくる。
椅子にじっとしているのが耐えられなくなってきて、周平は勢いよく立ち上がった。
がらがら、
と引き戸を開けると海辺の冷気が吹きつける。
やはり雨が降ったらしい。
地面が所々濡れていた。
うぅさむっ、と身震いして、
周平はふとその濡れ跡に注目する。
同じような形と、同じような間隔だった。
足跡じゃねぇかこれ、と思ったまさにそこで、
ぺしゃっ、とまた音がした。
ぺしゃっ、ぺしゃり。
濃密な深夜の闇を、
橙色の街灯が点々と照らしている。
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