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「あなたの会社ね。次世代バッテリーの開発に注力してるでしょ。水素吸蔵合金だか何だかを使ったやつ。まあ詳しいことは私にはわかんないんだけど。興味もないし。でもその開発データをほしい人がいる。大金と引き換えにね。だからまるまるコピーしてほしいの」
それは主に車載用に開発されているバッテリーだ。この技術が確立されれば、電気自動車の走行距離は飛躍的に伸びる。
「あと、2分30秒よ。さ、急がないと」
彼女は僕のほうにUSBメモリーを滑らせた。それでも僕が渋っていると、
「仮にあなたが協力を拒否して爆死したとしても、また別の誰かに同じことをするだけだからね。ヘタしたら、とんでもない数の死人がでるかも」
拒否するつもりはなかった。僕だって死にたくはない。ただ僕の命と引き換えに機密を流出させてしまってもいいのかどうか迷っているだけだ。頭の片隅には僕が犠牲になって機密を守るという考えも少しばかりはあったが、彼女の言葉でそれは完全に消えた。僕が犠牲になったところでいずれ機密が漏れるかもしれないのだ。そうなると僕は無駄死にだ。だったら僕の命だけでも救われたほうがいいだろう。
10秒ごとに繰り出される彼女のカウントダウンはすでに2分を切っていた。
「わかった」
認証コードを入力し、USBメモリーをパソコンに挿した。表示されたフォルダの中からバッテリー関連のものを全てコピーする。
それを覗き込んでいた彼女がにんまりと笑い、パソコンの画面を閉じた。
「ご協力、感謝するわ」
荷物をまとめ、席を立とうとしたはるかさんを慌てて呼び止めた。
「ちょっと待ってよ。暗示を解いてくれないのか」
彼女はいたずらっぽく笑うと、
「本当にそんな暗示、かけられると思う?」
「え?じゃあまさか、嘘なのか?」
「そうよ。飲み物に睡眠導入剤を混ぜて、少し眠ってもらっただけ。やっぱりあなたをターゲットにして正解だったわ。だって簡単に騙されるんだもの」
ごちそうさま、じゃあねと言い残し、彼女は店を出て行った。
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