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◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「次は……駅。次は――駅」
そのアナウンスに耳を傾け、降りる駅が終点である事を持っている切符と路線図を見て確認した。
そうこうしている内に電車は駅に到着して五、六人ほどが乗り込んできた。
ほとんどは制服を着た学生だったが、その中に一人、杖をつきながらも少々足元がおぼつかないお婆ちゃんの姿が見えた。
「……」
俺はその姿を確認すると、お婆さんが俺に近づいたタイミングで俺は無言で席を立った。
一言だけ声をかけても良かったかも知れないが、その一言によって噛みつかれてしまう可能性もある。
少なくとも、こちらとしては厚意のつもりであっても、相手はそう取らないかも知れない。
こんな知らない土地で目立つことは正直避けたい。
それに、お婆さんが座らなくてもそれはそれでいい。別の人が座っても俺としては特に問題はない。
そもそも俺が降りる駅は『次』だ。それならば、むしろ立っていた方が降りる時が楽というモノだ。
なんて思い、俺は運転手が近くにいる前の方の扉にスマートフォン片手に近づく、俺はそのまま扉を背にした。
すると、先ほどのお婆さんがこちらの方を見て、可愛らしくペコンと一礼している姿が見えた。
「……」
俺もお婆さんにつられるように軽くお辞儀をすると、お婆さんはこれまた可愛らしく笑った。
そんなお婆さんを見ると、心の中がどことなく暖かくなった。
本当に「こんな人が俺の周りにも、この世にもっとこんな可愛らしい人増えてくれたなら、俺は自殺なんて考えないのに……」と、決心が揺らぎそうになってしまった。
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