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俺は「はぁ」とため息を軽くついている間に、その猫は俺の足元で「ニャーニャー」と可愛らしく鳴いている。
猫の全身の毛は真っ黒。
ただ、目の色は黄色でも青でもない、イチゴのように鮮やかな赤色だ。
「なんで、こんな森の中に猫がいるんだ?」
猫の目の色も珍しいと思ったが、それ以上に「猫が森の中にいる」という状況に、俺は内心驚いていた。
「……腹が減ったのか? それなら、コレでも食え」
俺はそう独り言のように呟いて、カバンを広げて、足元にいる猫の目の前に握り飯をそっと置いた。
そもそも、カバンの中にはこの握り飯しか入れていない。後は、ズボンのポケットに入っている少しだけのお金だ。
死ぬつもりでここに来ているのだから、荷物なんてそもそも持ってくる必要はない。
「……」
猫が握り飯に興味を示している隙に、俺はさっさと『足あと』を進んだ……はずなのだが。
『置いていくなんてひどいじゃないかい』
「え」
『全く。ここ最近人が多く来ているせいで落ち着けないんだよ』
「…………」
叫びはしなかったモノの……いや、驚きすぎて叫ぶ事すら出来なかった。
なぜなら、俺の前には――いつの間に現れたのか、ついさっき握り飯を渡した黒猫が、なぜか『ペラペラと人の話をしていた』からである。
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