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第1話 放課後
「いた! 康太! 一緒に帰ろ!」
放課後、図書室で幼馴染みの上原 康太を見つけた私は、少し声をひそめて話しかける。
私は、さっきまで、生徒会長として先日の学校祭の反省会をしていた。
生徒会メンバーは、みんな私に負けず劣らずの熱血高校生ばかりだから、行事前にはよく意見の対立があったりもするんだけど、それも行事が終わってしまえば楽しかった思い出に変わる。
そして、そんな生徒会が終わると会いたくなるのが、いつも冷静でクールな幼馴染みの康太だ。
「智恵美うるさい」
康太はボソッ呟く。
「えっ? うそ!? 私、ちゃんと小さな声で言ったよ」
私は当然のように康太の前の席に座る。
「智恵美は元の声がでかいんだよ。ちょっとくらいボリューム下げたって普通の人の地声と一緒だ」
ぶぅ……
それは確かにそうかもしれないけど……
康太は、むくれる私に、呆れたようにため息をついて、読んでいた本をパタンと閉じた。
「康太、それ何?」
なんだか不気味な絵の表紙が気になって尋ねた。
「ん? ああ、これ? クトゥルフ神話」
康太は、パラパラと本をめくってみせる。
「ねぇ、それは?」
私は、真っ黒な人影の挿絵が気になった。
「ん? どれ?」
康太は通り過ぎたページを戻して、私が気になったページを探す。
「それ! その変な黒いの!」
「ん? ああ、これ?」
私が指差すと、康太はその本を私の方へ向けて見せてくれる。
「これはニャルラトホテプ。人が生み出した架空の神様だよ。読み物としてはおもしろいけど、妖精や吸血鬼と一緒で実在するわけじゃない」
吸血鬼と一緒……
その一言で私は頭の芯がスッと凍りつくのを感じた。
無言で固まる私の前で、康太はカタンという椅子の音とともに立ち上がった。
私はその音に反応して康太を見上げる。
「智恵美、何やってんだよ」
「えっ?」
首を傾げて見上げる私を、康太は呆れたように見下ろす。
「ほら、帰るんだろ?」
そう言われて、私は思い出したように慌てて立ち上がる。
私は、本を元の棚に返した康太と並んで学校を後にした。
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