第1話 放課後

1/1
81人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

第1話 放課後

「いた! 康太(こうた)! 一緒に帰ろ!」 放課後、図書室で幼馴染みの上原 康太(うえはら こうた)を見つけた私は、少し声をひそめて話しかける。 私は、さっきまで、生徒会長として先日の学校祭の反省会をしていた。 生徒会メンバーは、みんな私に負けず劣らずの熱血高校生ばかりだから、行事前にはよく意見の対立があったりもするんだけど、それも行事が終わってしまえば楽しかった思い出に変わる。 そして、そんな生徒会が終わると会いたくなるのが、いつも冷静でクールな幼馴染みの康太だ。 「智恵美(ちえみ)うるさい」 康太はボソッ呟く。 「えっ? うそ!? 私、ちゃんと小さな声で言ったよ」 私は当然のように康太の前の席に座る。 「智恵美は元の声がでかいんだよ。ちょっとくらいボリューム下げたって普通の人の地声と一緒だ」 ぶぅ…… それは確かにそうかもしれないけど…… 康太は、むくれる私に、呆れたようにため息をついて、読んでいた本をパタンと閉じた。 「康太、それ何?」 なんだか不気味な絵の表紙が気になって尋ねた。 「ん? ああ、これ? クトゥルフ神話」 康太は、パラパラと本をめくってみせる。 「ねぇ、それは?」 私は、真っ黒な人影の挿絵が気になった。 「ん? どれ?」 康太は通り過ぎたページを戻して、私が気になったページを探す。 「それ! その変な黒いの!」 「ん? ああ、これ?」 私が指差すと、康太はその本を私の方へ向けて見せてくれる。 「これはニャルラトホテプ。人が生み出した架空の神様だよ。読み物としてはおもしろいけど、妖精や吸血鬼と一緒で実在するわけじゃない」 吸血鬼と一緒…… その一言で私は頭の芯がスッと凍りつくのを感じた。 無言で固まる私の前で、康太はカタンという椅子の音とともに立ち上がった。 私はその音に反応して康太を見上げる。 「智恵美、何やってんだよ」 「えっ?」 首を傾げて見上げる私を、康太は呆れたように見下ろす。 「ほら、帰るんだろ?」 そう言われて、私は思い出したように慌てて立ち上がる。 私は、本を元の棚に返した康太と並んで学校を後にした。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!