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第2話 帰り道
校門を出た私たちは、並んで駅へと向かう。
「でね、ゆうこがさぁ……」
私はさっきの生徒会での話を康太にする。
私たちはいつもこう。
私が話して、康太が聞く。
小学生の頃は、康太ももっと話してた気がするんだけど、気づけばいつも私が話して、康太が聞いてる。
「あ、いい匂い! ねぇ、康太、お腹空かない?」
私が反応したのは、すぐ先にある焼き鳥屋さん。歩道に向かって大きく開けた窓から、とってもおいしそうな匂いが漂ってくる。
「しょうがねぇなぁ。1本だけな」
康太は呆れたように微かに笑いながら、財布を取り出す。
私は、最近滅多に笑わない康太のそんなちょっとした笑顔を見つけると、なんだか胸の奥がキュンとしてザワザワ、ソワソワしてくる。
分かってる。これがどういうことなのか。
でも、私は動けない。
普段から、暑苦しいって言われるくらい、猪突猛進ですぐに動く私だけど、これだけはダメ。
「おじさん、ももを塩とタレ1本ずつください」
「はい、喜んでー!」
康太はおじさんから2本乗った皿を受け取ると、当然のように塩を私に差し出す。
「あ、お金」
私は、康太にそれを持たせたまま、鞄を探る。
「いいよ、これくらい。それよりさっさと食え」
康太がそういうから、私は串を受け取って、店先の丸椅子に腰を下ろした。
幼い頃から一緒だった康太は、私のことをなんでも分かってるみたい。
もちろん、私だって康太のこと、大抵のことは分かってるつもり。
康太の気持ち以外は。
私が焼き鳥を頬張り串から引き抜いた時、色付いた銀杏並木の下のガードレールに綺麗な赤とんぼが止まった。
「あ、ドラゴンフライ!」
私は、口の中で焼き鳥をもぐもぐしながら、指さした。
「ああ、ほんとだ」
とんぼを英語でドラゴンフライっていうんだって教えてくれたのは、小学生の頃の康太。
それ以来、私は、とんぼを見るたびに、ドラゴンフライって言葉と一緒に康太を思い出す。
思えば康太は子供の頃から物知りだった。
勉強も得意で、今は医学部を目指している。
私は、父が製薬会社の代表を務めてるっていう理由で、薬学部を目指してるけど、父の会社に入る前に康太と同じ病院で働けたらいいな…なんて淡い夢を描いたりもする。
焼き鳥を食べ終えた私たちは、おじさんにご馳走さまと挨拶をして、また並んで駅へと向かう。
こんな時間が永遠に続けばいいのに……
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