第3話 生い立ち

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第3話 生い立ち

私が普通の女子高生なら、きっと今すぐにでも康太に想いを伝えたと思う。 でも、私は普通じゃない。 だから、私は一生康太とは幼馴染みのいい友人でいると決めている。 私の両親は、父が若い頃、会社から派遣されたドイツ留学中にヨーロッパ各地を旅行していて、母と出会ったらしい。 夜は危険だから外出は控えるようにとホテルの人に言われたにもかかわらず、父は深夜にホテルを抜け出した。 その地方の民間療法で、夜にしか咲かないトリカブト変種の花が使われていることを知った父は、その花に薬効成分があるのではないかと考え、それを採取に出かけたのだ。 そして、母と出会った。 食事の帰りだった母は、父に一目惚れしたらしい。 同じように父も。 漆黒の闇に溶けるような黒いドレスをまとい、抜けるように白い肌をした母は、月明かりに輝いて見えたそうだ。 父と母は、父がそこに滞在中、毎晩のように待ち合わせ、思いを通わせた。 そして、別れ際、プロポーズした父に、母は告げたんだ。自分は吸血鬼だと。父を襲わなかったのは、父と会う前にいつも他の人間を襲って満足していたからだと。 それでも諦めきれなかった父は、その一月後、再びその地を訪れた。 父の会社の開発した輸血用血液製剤を持って。 吸血鬼と知りつつ、結婚を申し込むなんて、普通に考えたら、狂気の沙汰としか思えない。 けれど、それほどに父の想いは深かった。 そしてまた、それは母も同じだった。 母は、決してその味に満足したわけじゃない。 けれど、それで飢えをしのぐことができるなら、父と暮らすことができる、ただその一点で、母は人を襲うことをやめた。 1年後、留学を終えた父とともに日本に渡り、母は夜な夜な血液製剤を飲む日々が始まった。 だから、私の家には、父の会社で作られた輸血用血液製剤がいつもたくさんストックされている。 ただ、私に吸血鬼としての性質が遺伝しているかどうかは、大人になってみないと分からないらしい。 今は、少し人より運動能力が高い普通の女子高生だけど、もし母の能力が遺伝していれば、そろそろなんらかの兆候が出ると母は言っている。 そして、仮に私に出なくても、その子供に出ないとは言えないと。 だから、私は、将来、誰とも結婚しない。 こんな不安を抱えながら生きていくのは、私だけで十分。 私から見たら、身分違いの王子様と結婚するお伽話なんて、全然大したことない。 だって、同じ人間同士なんだから。 できれば、私だってその程度の悩みが良かった。
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