第4話 痛……くない!?

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第4話 痛……くない!?

◇ ◇ ◇ 駅に着いた私たちは、揃って電車に乗る。 電車の中では、特に話すこともなく、ただ無言で並んで立っている。 私は入り口横の手すりを掴み、ドアのガラスから外を眺める。 (ほうき)ではいたような薄い雲が徐々に夕焼けに染まっていく。 康太は同じ手すりの私の手の上を握って、私の後ろに立つ。 ガタンゴトンと揺れる車内で、私たちは、無言で同じ景色を眺める。 その時! ガガガガガ!! 大きな音が前方から聞こえた。 「何!?」 驚いたのは私だけじゃない。 車内が、ざわめいた次の瞬間、大きく揺れた。 えっ? 電車が傾いてる!? スローモーションのようにゆっくりと、私たちの立つドアとは反対側に車両が傾いていく。 わっ! 落ちる!? 反対のドアが地面になれば当然私はそこへ落下するしかない。 「智恵美!」 私の名前を珍しく大声で叫んだ康太は、そのままギュッと私を抱きしめた。 次の瞬間…… 「いったぁ……くない!?」 思わず、痛いと言いかけて、どこも痛くないことに気づいた。 どこもけがをしてない!? そうだ! 「康太! 康太!」 私は康太の名前を呼ぶ。 背中からギュッと回された腕は、康太のもの。 私はその腕をほどいて、背中に何か引っ掛かりを感じながらも、押し潰すように乗っていた康太の上から退いた。 で、驚いた。 うそっ!! 何で!? 康太のお腹から何かが生えている。 これ、何!? しばらくそれを眺めてから気づいた。 傘だ! 多分、その下にいる人の傘が背中から突き刺さってるんだ! あれ? でも、それなら、私にも刺さっててもおかしくない。 私は、自分の背中を触ってみて気づいた。 服が破れていることに。 これ、どういうこと!? そして、気づいた。 これは吸血鬼の性質が覚醒したんだということに。 治癒力が異常に高いから、ほぼ不老不死なんだと母が言っていた。 いえ、今はそんなことはどうでもいい。 「康太! 康太! ねぇ、返事して!」 私は泣きながら康太を呼ぶけれど、康太は目を開けない。 お願い! 誰か康太を助けて! しばらくして、レスキューが到着し、トリアージと搬送が始まった。 私は康太を先にとお願いするけれど、取り合ってはもらえない。 ようやく、康太の番になり、私も同乗して病院へと搬送される。 なのに…… 「輸血用血液が足りない」 「センターへ連絡」 そんな会話が漏れ聞こえてくる。 「血液製剤で……」 「それももう残りが……」 そんな…… 確かにロビーまで怪我人であふれかえって、まるで戦場のようだ。 血液製剤なら、うちにある。 ここから家まで5キロ。 私は、病院を飛び出した。 けれど、病院前のロータリーに、普段ならいるはずのタクシーがいない。 迷ってる暇はない。 諦めちゃダメ! 私は、走り出した。全速力で。 5キロを10分強で駆け抜けた私は、母の今夜の分を残し、段ボール二箱を抱えて、電話で呼んだタクシーに乗り込む。 速く!速く! タクシーの後部座席で祈るように病院へと急ぐ。 私から康太に届けられるのは、もうこれしかない。
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