81人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
第4話 痛……くない!?
◇ ◇ ◇
駅に着いた私たちは、揃って電車に乗る。
電車の中では、特に話すこともなく、ただ無言で並んで立っている。
私は入り口横の手すりを掴み、ドアのガラスから外を眺める。
箒ではいたような薄い雲が徐々に夕焼けに染まっていく。
康太は同じ手すりの私の手の上を握って、私の後ろに立つ。
ガタンゴトンと揺れる車内で、私たちは、無言で同じ景色を眺める。
その時!
ガガガガガ!!
大きな音が前方から聞こえた。
「何!?」
驚いたのは私だけじゃない。
車内が、ざわめいた次の瞬間、大きく揺れた。
えっ? 電車が傾いてる!?
スローモーションのようにゆっくりと、私たちの立つドアとは反対側に車両が傾いていく。
わっ! 落ちる!?
反対のドアが地面になれば当然私はそこへ落下するしかない。
「智恵美!」
私の名前を珍しく大声で叫んだ康太は、そのままギュッと私を抱きしめた。
次の瞬間……
「いったぁ……くない!?」
思わず、痛いと言いかけて、どこも痛くないことに気づいた。
どこもけがをしてない!?
そうだ!
「康太! 康太!」
私は康太の名前を呼ぶ。
背中からギュッと回された腕は、康太のもの。
私はその腕をほどいて、背中に何か引っ掛かりを感じながらも、押し潰すように乗っていた康太の上から退いた。
で、驚いた。
うそっ!!
何で!?
康太のお腹から何かが生えている。
これ、何!?
しばらくそれを眺めてから気づいた。
傘だ!
多分、その下にいる人の傘が背中から突き刺さってるんだ!
あれ?
でも、それなら、私にも刺さっててもおかしくない。
私は、自分の背中を触ってみて気づいた。
服が破れていることに。
これ、どういうこと!?
そして、気づいた。
これは吸血鬼の性質が覚醒したんだということに。
治癒力が異常に高いから、ほぼ不老不死なんだと母が言っていた。
いえ、今はそんなことはどうでもいい。
「康太! 康太! ねぇ、返事して!」
私は泣きながら康太を呼ぶけれど、康太は目を開けない。
お願い!
誰か康太を助けて!
しばらくして、レスキューが到着し、トリアージと搬送が始まった。
私は康太を先にとお願いするけれど、取り合ってはもらえない。
ようやく、康太の番になり、私も同乗して病院へと搬送される。
なのに……
「輸血用血液が足りない」
「センターへ連絡」
そんな会話が漏れ聞こえてくる。
「血液製剤で……」
「それももう残りが……」
そんな……
確かにロビーまで怪我人であふれかえって、まるで戦場のようだ。
血液製剤なら、うちにある。
ここから家まで5キロ。
私は、病院を飛び出した。
けれど、病院前のロータリーに、普段ならいるはずのタクシーがいない。
迷ってる暇はない。
諦めちゃダメ!
私は、走り出した。全速力で。
5キロを10分強で駆け抜けた私は、母の今夜の分を残し、段ボール二箱を抱えて、電話で呼んだタクシーに乗り込む。
速く!速く!
タクシーの後部座席で祈るように病院へと急ぐ。
私から康太に届けられるのは、もうこれしかない。
最初のコメントを投稿しよう!