あたらしいせかいと、ふるくなるぼくと

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「アナーキー・アダルト・チルドレン」 社会に対して疑問を持ってしまった時、 どうするのが1番良いのだろうか。 イヤホンからははっぴぃえんどの「風をあつめて」 緊急事態宣言前夜の夜景はいつもよりひっそりとしているように見えた。 実際は車内の明かりの反射で良くは見えない。 つづいて鼓膜を振動させるのは、休憩時間にひっそりと録音したアコギの音と、自分の歌声。 明日には、全員から失望されるようなイベントが待っていたとしても、負け犬になりたくないなら、逃げずに向き合うしかないのだろう。 何が本当に正しいかみたいな、絶対的な正義の存在は疑って久しいし、もう興味もなくしてしまった気がする。 俺は頭がおかしいのか、それともちょっと疲れているだけか。 開けっ放しにされた扉から車内に入り込んでくる冷え切った空気だけが実感できて、少し嬉しくなる。 そんな僕のとりとめのない機微や感情の揺らぎは、他人にとってはなんの価値もないものなのだろう。 そんな当たり前のことを、今更確認しただけで、なぜこんなにも寂しいのだろうか。 確かな実感が欲しいが、それは与えられるものではなく、求めるほど疑念を増し実感を失っていく。 小さなメガネのギターボーカルが、奏でる和音と歌いあげる旋律は、彼にとってだけ重要なのだ。 拒絶するわけでもないが、決して受け入れりわけでもない。 半透明な水槽のような社会と向き合って、ふとした時に自分が異物であると気づく。 知らず知らずのうちに決められた基準から逸脱し虚しい現実を少しずつ踏み固めていく。 次の誕生日で28才になる。 今のところ30を過ぎてやりたいことや、心の支えになりそうなものは見つかっていない。 みんなそうなのか、自分だけなのか。 大人になれない子供。 世の中とうまくやれずに 気が狂ったように振る舞う アナーキー・アダルト・チルドレン達に捧ぐ。 僕らは電脳都市で迷子になっている。
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