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アウローラ王国に名高い美女、輝石姫とあだ名される少女がいる。
名をオーレリア・デ・ロンタス。 伯爵家の令嬢に過ぎない彼女だが、およそ心を持つ人は皆、この美しい少女を見ると目を離せなくなり、ついで彼女の言葉を聞いて言葉を失う。
「ロンタス嬢、どうかこれを受け取ってください」
男爵家の次男から大振りのダイヤモンドを使った首飾りを突き出されて告げられた言葉を受けてオーレリアは微かな微笑を浮かべた。
それは花がほころぶような可憐さがあり、星がきらめくような清廉さがあった。 その笑顔を向けられただけでもダイヤモンドがまるでガラス片になったかのようなほどの麗しさであった。
しかし、オーレリアの言葉はガラスよりなお冷たかった。
「豚から貰ったのではダイヤモンドも石くれね」
醜く肥えた肉に埋もれるようにして自分の前にひざまずく男爵家の次男を前にしてローレリアはそれ以上視線を向ける価値もないとばかりに顔を背けた。
周囲に集まっていた貴族たちは押し殺したような笑い声を零し、その有様を眺めていた。
王宮主催のお茶会。 アウローラ王国が北方守護戦争を終えてから四十年ほどの時を経て既にただの貴族たちの社交となったこのお茶会でオーレリアは退屈そうな表情をしていた。
誰も彼も似通ったようなドレスに身をつつみ、流行っているからという理由で似合っているかなど度外視した髪型や化粧をしている。
そんな有様を軽蔑しながらも、オーレリアは自らの貴族という立場のためにこの茶会に招待されていた。
「オーレリア、よかったのかしら。 あのダイヤモンド素敵だったのに」
「言ったでしょう、豚からもらったんじゃ石くれよ。 宝石がなければ輝けないような人間ならともかく、私はそんなに安くないの」
晴れ渡る青空の下に極上の絹糸を染め上げたようなブルネットを揺らしながらオーレリアは笑みを浮かべていた。
声をかけてきたのは侯爵家のリリアーヌ。 背が高く痩せすぎてはいるが穏やかな知性を感じる緑の目がオーレリアは嫌いではなかった。 そうはいっても嫌いではない、程度。 頬が青白いのに濃い色のドレスなんて着ているからなおさら顔色が青白く見えて、今にも卒倒しそうな見た目になっている。
「リリアーヌ、貴方は明るい色の方が似合うんじゃない。 ボリュームのあるドレスも似合うわよ」
「そうはいっても、それって今の流行りじゃないでしょう? 今は細く見えるドレスが流行ってるもの」
「……あら、そう」
それ以上はオーレリアは言わなかった。 わざわざ似合わない恰好をしたい、と望むならば好きにすればいいと割り切ってオーレリアは扇子を口元にそえた。
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