1・白いホスピス

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 紗代がわざと平坦に出している声が痛々しいと思った。  冷え切っていたその手をもう一度握りしめて、彼女を胸に抱きしめて温めたい。――そう思った自分がわからなくて陽樹は立ち尽くす。 「僕は医師だから」  半分は自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。そうだ、自分は医師で、紗代は陽樹が管理するべき対象なのだ。さっき自分で言ったように、こんな寒いところにいては心配に決まっている。  無理矢理自分の中で理由を探し出して自分を納得させようとしていると、紗代は陽樹がなんとか行動と結びつけようとした言葉をあっさりと拒絶する。 「私に医師は必要ない」 「病気になってから治すのだけが医師の仕事じゃないよ。君が健康に過ごせるようにするのも僕の仕事だ」 「……勝手にしたら」  なおも食い下がる陽樹を面倒に思ったのか、紗代は本を取り上げると建物の中へ戻っていった。そのまま一室のドアを開けて入っていく。あそこが彼女の部屋なのだろうかと陽樹はその背を目で追いながら思う。  自分の行動に混乱しつつ陽樹が廊下に戻ると、永井が呆れ顔で腕を組んで待っていた。 「おい、色男。いきなり何をやってるんだ。口説いて振られたのか」 「何を言ってるんだい、永井くん……口説いたりしてないよ」 「話の内容まではわからなかったが、ここからだと言い寄ってるように見えたぞ。俺が山奥にいる間に、初対面の相手の手を握るのがおまえの挨拶になったのか」 「……彼女、僕のことを『あなたは貴種?』って」  この寂しい気持ちはなんだろうか。力なく呟いた陽樹の言葉に永井が眉を上げる。 「あいつは、自分が最後の貴種だと知っているはずだ」 「じゃあ、なんで」 「知らん。おまえの顔が人間離れして良いからじゃないのか」 「それ、全く褒め言葉じゃないよね。その顔のせいで今回も酷い目に遭ってるんだし」
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