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眉間にぐっと皺を寄せ、思わず冷たい声が出る。
顔が良い、イケメン、どちらも聞き飽きた言葉だし言われても嬉しく思えない。学生時代からよく芸能関係にスカウトされていたり、勝手に高校や大学のミスターコンテストにエントリーされていたりもした。
濡れたような艶のある黒髪に、対照的な白い肌。外国の血が入っていると思われがちな彫りの深い顔立ちはクールに整っていて、黙っていると冷たい印象を周囲に与えてしまう。それに加えて、まともに電車に乗ろうとしたらドアの前面に額がぶつかる高身長が揃えば、何もしなくても周囲に女性が集まり、同性からはやっかみで避けられた。
永井はその外見での偏見を乗り越えて、親友と呼べる存在になった貴重な人間だ。そんな彼に言われたくない言葉だった。
なお、永井からの陽樹の評価は「黙っていればクールで格好良く見えるところがシベリアンハスキーだ」というものだ。暗に、喋るとイメージが崩れることも指摘されている。
「悪かった。つまり、客観的におまえの容姿は貴種に間違えられてもおかしくない、と言いたかったんだ」
「……そんな理由にはとても思えなかった」
思わず吐いたため息に永井のため息も重なった。
「紗代は、いろいろと難しい奴だ。でも……ああ、こんなところで立ち話していることもないな。暖かい部屋で話すか。何か飲みながら」
「それもそうだね」
紗代はひとりで何をしているのだろうか。気にはなったが着任初日から彼女をしつこく追い回してもいいことはないはずだった。
十年、二十年、あるいはこの仕事を自ら辞めようと思うまで、彼女とは長い付き合いになるはずなのだから。
リビングダイニングのような部屋に陽樹は連れてこられていた。研究所というここの名称とはかけ離れていて、暖かみのある木のテーブルと椅子に、柔らかな色合いのソファセット、そして大型のテレビまである。一般家庭にあるものに限りなく近いが、テーブルが大きく、椅子が全部で十脚ある点が大きく違った。
電気ポットで湯を沸かすと、永井は驚くほど雑な手つきでインスタントコーヒーを二人分淹れた。彼が以前からあまり食べ物に頓着がないことを思い出し、陽樹は軽い頭痛を覚えた。栄養バランスがとれていて空腹感を感じないなら、三食同じ物を食べ続けても気にしないタイプなのだ。嗜好品にもそれほど興味がないから、コーヒーのことも「味がして体が温まればいい」という程度にしか思っていないのだろう。
「貴種についてはどこまで知ってる?」
薄い泥かというようなコーヒーに砂糖とクリームを適当に入れて、それをまずそうに一口すすってから永井は口を開いた。
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