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迷わず外階段を下りていく背中を追うと、一番下、外階段の入り口、侵入防止のためだろう内側からの鍵を外して、辺りをうかがった薄木はようやくこちらを見た。
これは大丈夫じゃない。
「薄木」
たぶん抜け出そうとしている。だって許可を取った外出で外階段なんて使わない。思わず伸ばした手はたやすく受け止められた。
「行こう」
繋がった手が生を伝える。ひやりとして、熱くて、どちらの温度がどちらの持ち物か、脳内で理解が弾けた。
雲間から差した光が淡い梯子を作る。葉っぱや土に積もった柔らかな雪がその光を反射してきらきらと瞬く。薄い水たまりは靴を迎える度にぱしゃりと踊って、風がふんわりと背中を押す。
ゆっくりと、時折抑えられないように小走りに、薄木と僕は町を抜けていく。
「綺麗だね」
振り返った薄木に僕はうなずいた。返す言葉が見つからなかった。
少しずつ海の匂いが近くなる。薄木に手を引かれることは初めてで、でもこうすることが今ここでは全く当然のように、何の違和感もなかった。
「ねえ、佐野」
「ん?」
また一段、潮の匂いが強くなる。今日の薄木は咳き込まない。
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