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「明日は何するの?」
「明日――は、学校だけど、普通に」
「何の授業?」
「半分自習だよ。試験もうすぐだから」
「そっかー。今年のお正月はないようなものかな」
「――うん」
ざあ、と風がわめく。
視界がひらけて、目の前に海が広がった。
「すごいしかめっ面」
薄木が海を前にして笑う。濃い青は目の前にすると透明度を増して、より深くなった。
「佐野って、明日の話、嫌いだよね」
そうだよ。僕は明日が好きじゃない。だって薄木がいる今日は確かだから、一生今日が続けばいいと思っている。
「ごめんね。僕は好きだから」
「――何で」
薄木は不安ではないのだろうか。
眠ったら目が覚めないかもしれないことを。朝起きたら息が吸えなくなるかもしれないことを。怖くないのだろうか。
一歩、進んだ薄木が振り向く。穏やかな表情は、まるで凪いだ海だった。
「僕は出会えないかもしれないけど、明日が来てほしいと思うんだよ」
「――」
ああ違う。僕はすぐに理解した。薄木はそれらが隣にあることを受け入れたんだ。僕とこうしているように、手を繋ぐことを選んだんだ。
胃の腑が、背中が、身体の芯がいやに冷たい。目が、耳が、鼻が、口が、手が。頭より先に何かを受け取った感覚たちが警鐘を鳴らして、手に力が込もる。
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