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一瞬、数秒、十数秒。
どうしてか上手く反応しないスマートフォンで救急車を呼んで、病院への道中で薄木の呼吸は元に戻っていたらしい。けれど正直よく覚えていない。ただ薄木の診察を待つ間、看護師に具合を問われてようやく、手が震えていたことに気がついた。平気ですと握りこんだ手は、呼ばれる頃にはほぐさなければいけないほどに固まっていた。
「てごめん、水じゃおいしくないね。自販機行く?」
「ううん」
並々とついでしまった水を一気に飲み干すと、身体に染み渡る感覚。知らぬ間に乾いていたらしい。こんなところは一緒のはずなのに、一体僕と薄木で何が違うんだろう。
あれから薄木は、鰓呼吸症候群と診断された。
症状の進み具合は人それぞれ。初期段階なら普段通りに生活もできるが、進行すればこうして診療所に入る人が多い。
薄木もしばらくは家にいた。学校にも通っていた。でもどちらでも同じように発作が起きて危ないと判断された。何かが引き金となって起こる精神病ならば、その原因を少しでも遠ざけようということだったのだろう。
呼吸を失いかけたその何度かで、僕は薄木の隣で背をさすった。無意味だったと思う。でも少したてばありがとうと笑う薄木を見て、たぶん救われていたのは僕だった。
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