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原因があれば多少なりも心の置き場ができる。それのせいだったのだと、やり場のない感情の置き場所を少しだけ作れる。
けれどたぶん、薄木はそうではなかった。
大事ではない何かが、少しずつ降り積もって息ができなくなる。他人には些細な、どこにでも転がっている何か。そんなことは誰にでもあって、だから誰にも言えない。そうでなくとも誰とも分け合えないことはある。
もしそれらに息が詰まったのだとして、それは薄木のせいではない。それなのに薄木は、本当はないはずのその責任を抱えているように思えた。
僕はただ、そんな薄木と一緒にいた。そうするしかできなかった、というのもある。
原因も辛さも分け合えなくても、同じ時間を過ごしたら、同じ一緒を積み重ねられる。薄木がただ、どこにいても、少しでも穏やかに呼吸を続けていてくれればいいのだと、言葉では上手く言えないから伝えたかった。
だから僕はここに足を運び続けている。薄木が笑ってくれるから。そしてそれは僕のためでもあった。
薄木の発作が治まること、その場に僕がいても大丈夫だったこと、好きに動き回れないほど呼吸が不自由になった今でもこうして、僕の来訪が受け入れられること。
それらが、僕が薄木と一緒にいてもいいのだと言われている気がして救われている。
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