48人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
(2)
最初の魔女が日本の地を踏んだのは、江戸時代より少し前のことだ。厳しい魔女狩りから逃れ、南蛮貿易の船に乗って流れ着いた。
それから四百年余り、日本における魔女の役割は、意外なことに仏教寺院の祈祷を援護することに落ち着ていった。
大晦日、日本の寺社では除夜の鐘を撞いて煩悩を祓い、一年の厄を落とす。その間に魔女は空を飛んで、一年分の闇を掃き清めるのだ。
「よりによって、こんな寒い日に……」
寒波の襲来で例年以上に冷え込んでいた。
「大晦日の午後十一時からの何時間か、この国では、退魔の力が一番大きくなる。十七歳になったら、一度はその大掃除に参加するのよ」
「しないとどうなるの?」
「どうにもならない」
「だったら、行かなくても……」
箒を担いだ直美は、怒った顔のままずんずんと歩き続けた。
「ねえ、どうしても行くの? なんで?」
「理沙が魔女だから」
「そんなの理由になってないよ」
「それでも、そうとしか言えない」
理沙はマスク中で口を尖らせた。
最初のコメントを投稿しよう!