(2)

1/1
48人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ

(2)

 最初の魔女が日本の地を踏んだのは、江戸時代より少し前のことだ。厳しい魔女狩りから逃れ、南蛮貿易の船に乗って流れ着いた。  それから四百年余り、日本における魔女の役割は、意外なことに仏教寺院の祈祷を援護することに落ち着ていった。  大晦日、日本の寺社では除夜の鐘を()いて煩悩を(はら)い、一年の厄を落とす。その間に魔女は空を飛んで、一年分の闇を()き清めるのだ。 「よりによって、こんな寒い日に……」  寒波の襲来で例年以上に冷え込んでいた。 「大晦日の午後十一時からの何時間か、この国では、退魔の力が一番大きくなる。十七歳になったら、一度はその大掃除に参加するのよ」 「しないとどうなるの?」 「どうにもならない」 「だったら、行かなくても……」  箒を担いだ直美は、怒った顔のままずんずんと歩き続けた。 「ねえ、どうしても行くの? なんで?」 「理沙が魔女だから」 「そんなの理由になってないよ」 「それでも、そうとしか言えない」  理沙はマスク中で口を尖らせた。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!