六方(ろっぽ)、狸の変化(へんげ)を追う

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十三はしばらく、去っていく狸の後ろ姿を見ておりました。 いつになったら六方が追跡を再開するのだろうと待ち構えていましたが、一向に立ち上がる気配がありません。 「六方さん、追わないと」 振り向いた十三はあやうく、悲鳴を上げるところでした。 いつからそこにいたのか、六方の目の前に月野という少女が腕を組んで立っていたからです。 「珍しい目の色。正真正銘の眼力がある人なんて、いるわけないと思ってた」 十三が反射的に立ち上がろうとすると、少女はまるで動きを予知していたかのようにすばやく間合いを詰めて、彼が立ち上がるのを阻みました。 組んでいたはずの右手は彼の肩に置かれ、人差し指の立てられた左手は左右に振られています。 軽く添えられているだけの手は、中学一年生のものとは思えないほど重く感じられ、一切の身動きが取れないように思えました。 月野と呼ばれた少女は、一重で切れ長の目が特徴的な美少女でした。 よく見ると、瞳のうちに燠火(おきび)のような赤い光が宿っています。 「月野さんだっけ。君のような人の方が、私なんかより珍しいと思うよ」 珍しいことに、六方が先に口を開きました。 少女は目を何度も(しばたた)かせながら、首を六方の方へ向けました。 「あなたのその目……、どこまで見えているの」 藪を見透かすように目を細めると、隙間なく生えたまつ毛が線を引いたように目を黒く縁取ります。 「他の人よりも、よく見えると言われているよ」 六方は慎重に返事をしました。 「私は一社六方、隣にいるのが、高縄十三君」 十三は隣で、小刻みに頭を上下させます。 目の前にいる少女の知り合い――小学校の教師――の正体は狸の変化でした。 彼女に本当のことを告げていいものか、六方は悩んでいるのでしょう。 (りん)とした強さのようなものが感じられるものの、相手はまだ、中学一年生の子どもなのです。 六方は一般的な話題を口にしました。 「自主トレだっけ。こんな時間に……、一人で?」 「月野弓子です。ご心配いただかなくてもだいじょうぶ。一人じゃないんで」 弓子の喋り方は、はきはきとしていました。 十三が思うに、彼女はきっと自分で自分の身を守れるに違いありません。 感心したときの癖で、彼は右手で左のほほをつるりと撫でました。 「ところで会話を盗み聞きしていた理由を教えていただけますか? 六方さん」 「君の話していた相手だけど、実は狸が人に化けているんだ」 六方の暴露した驚くべき秘密に、少女は眉一つ動かしませんでした。
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