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十三は、女子中学生の月野弓子を追いかけよう、と主張しました。
「よく分からないけど、放っておけないじゃないですか」
六方は首を縦に振りません。
「警告を受けただろう? 『小僧は帰れ』と。神様の言いつけは素直に聞いておいた方がいい」
彼によれば弓子が首に掛けていた布には神様が宿っていて、狐の窓で見ると、神々しくも眩い炎神が彼女の背後に立っていたそうです。
「僕にはただの手拭いにしか見えなかったんですけど。六方さん、もしかして僕たち二人そろって、狸に化かされたんじゃないですか」
六方はベンチに寄りかかり、鼻から息を吐くと、「可能性は低い」と答えました。
「まず、あの月野という子も狸の仲間でないと筋が通らない。ところが太貫教諭は彼女に会って驚いていた。どちらかというと接触を避けているようだった。加えて言うならば、狸が追跡に気付いていて、二人を同時に化かすことが出来るのなら、もっと単純な方法で我々を追い払うことが可能ではないかな」
確かにそうだ、と十三はうなずきました。
「でも彼女は、まるで狸を逃すために時間を稼いでいたように見えましたよ」
「我々が危ない案件に手を出さないように、守ってくれたと考えるべきだと思う」
六方は立ち上がりました。
「君は小学校の生徒や、あの中学生のことを心配しているけれど、危険に対して最も無防備なのは君自身だ」
「そうかも知れませんが、太貫が狸の変化だと僕に教えたのは六方さんですよ」
論理が飛躍したことは、十三自身にも分かっていました。
「知っていたら、放っておけないじゃないですか」
「君はもっと……、いや、君に変化のことを教えたのは失敗だった」
六方は狸の去った方角に背を向け、来た道を戻ろうと足を踏み出しました。
「特別な怪奇現象ではなく、ごくありふれたことだと示したかったのだけど」
声には、そこはかとない寂しさのようなものがこもっていました。
十三は去りゆく背中と、公園の奥とを何度も見比べます。
影が伸びるほどのあいだ悩んで、ついに心を決めました。
ため息を一つつくと、彼は公園の出口に向けて走り出しました。
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