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六方(ろっぽ)、狸の変化(へんげ)を追う
高縄十三と一社六方は学校帰りに日用品の買い物を終えて、小学校の正門前を通る道を歩いていました。
邪眼を使った妖怪の襲撃事件から、十日ほど経った木曜日の夕方のことです。
今日のゼミの最中、またしても寒咲先生が、十三を待ち受ける不吉な運命について予言を行ったのでした。
准教授のオカルト趣味も、一度だけとはいえ当たってしまったからには、完全に無視することは出来ません。
十三はゼミの一年先輩である六方にお願いして、一緒に帰ることにしました。
六方はふだん、何を考えているのか分かりづらい人物ではありますが、少なくともこの間は彼の身を守ってくれています。
前回、六方のマンションを慌てて立ち去ったことについても、とくに気にしている風ではありませんでした。
スーパーマーケットに立ち寄ることを条件に、気安く引き受けてくれたのです。
「まだ五時前なのに、もう日が暮れそうですね」
冬が近づいて季節性の伝染病が流行り始めたせいか、この時間、小学校の周囲に下校する子供たちの姿はありません。
学校にも、残っている生徒はいないようです。
六方は人影のない校庭へ、ちらちらと目をやりながら、大股の早足で歩いています。
小学生の頃は両眼を失っていたそうなので、もしかするとグランドを走ってみたい、鉄棒や雲梯にぶら下がってみたい、などと思っているのかもしれません。
十三は彼よりも握りこぶし一つぶん背の高い先輩を追いました。
二人が小学校の正門に差し掛かった時、ちょうど中からこげ茶のパンツに赤茶色のソフトジャケットという出で立ちの男性が出てきました。
年齢はおそらく三十歳前後、身長は六方より頭ひとつ分低いのに、体の幅と厚みは倍もあるようでした。
「太貫先生、お疲れ様です」
正門の守衛に声をかけられると、男性は背中を丸めて深々とお辞儀をします。
そのあと腰を左右に振りつつ、西へ向かって歩み去っていきました。
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