六方(ろっぽ)、狸の変化(へんげ)を追う

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コミカルな後ろ姿を目で追っていると、六方が突然、話しかけてきました。 「高縄君、狐の窓のことを覚えているかい」 六方の両目は「狐の窓」と呼ばれる呪(まじな)いの力を持つ不思議な目です。 ふつうの人ならば指を丸めたり、左右の指を組んだりして狐の窓を作り出しますが、彼は何もせずに不思議の物事を見ることが出来るのです。 十三が、「ええ」と返事をすると、六方は前方を指さしました。 「狐の窓で、あの先生を見てごらん」 十三はいぶかしく思いながらも、親指と人差し指で作った輪っかを目に当てます。 すると、信じられないことが起きました。 遠ざかっていく男性の尻に、尻尾が揺れているのが見えたのです。 まるで(タヌキ)かアライグマのようなふさふさとした尻尾は、狐の窓を通した時だけ目に映り、指を外すと全く見えなくなるのでした。 「六方さん、あれってまさか……」 「見えたかい? あの先生は狸の変化(へんげ)かもしれないね」 「妖怪が教師に化けて、小学校に出入りしているって言うんですか」 人間に変化(へんげ)した妖怪が、小学校の教師をしているなんて、とても恐ろしいことです。 十三は買い物の詰まったエコバッグを肩にかけ直し、太貫という教師の去った方向へ足を踏み出しました。 「高縄君、帰り道はそっちじゃないよ」 「狸の後を追います」 六方が追いかけて来て、彼の横に並びました。 「君は何をしようとしているのかな」 「あの狸が何をするつもりなのか、確かめるんです」 六方は眉を寄せました。 「妖怪には関わりたくない、と言っていたはずだけど」 十三は頭に血が上ってくるのを感じました。 「それは僕個人の感想です。子供たちが被害に合うかもしれないのなら、話は別じゃないですか。好き嫌いなんて言っていられません」 彼の答えに、六方は目を丸くして立ち止まってしまいました。 「帰っていただいて、いいですよ」 十三はそう言い残して、さらに足を速めました。 意外なことに、六方はほとんど間を置かずに追いついてきました。 顔を上げ、前方を行く人影を真っ直ぐに見据えています。 彫りの深い横顔に正面から日が当たり、わずかに細められた目の中の瞳は、明々と燃えていました。 相変わらず感情の起伏が分かりづらい表情ですが、彼には六方が状況を楽しんでいるかのように見えました。
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