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私は今から飛び降りる。一年前から決めていたことだ。
私は今日、死ぬ。
少しでも体重を掛けたら崩れてしまいそうなフェンスを、慎重に跨ぐ。
崩れたって別にいいんだけど、こういうのは形が大事だと思うの。
遮るものが無い景色というのは、こんな感じなのか。私は、両手を広げ大きく息を吸った。
「そこに居たら死んじゃうよ」
ふいに後ろから可愛らしい女性の声がした。私は前を向いたまま答える。
「死ぬからいいの」
「痛いと思うな」
「知ってる? この高さから飛び降りると、地面にぶつかる前に人は意識を失うんだよ」
ここは十階建てマンションの屋上。高校生が自殺するなら、学校の屋上が鉄板だ。だけど、私は死ぬなら絶対にここがいいと思っていた。
「だから死んだことに気付かない。痛みなんて感じない。良い死に方ができる」
「そんなの生きている人が言っている迷信だよ」
「死ねるならなんでもいいよ」
「綺麗な形で残らないよ。足なんて変な方向に折れるし、頭はグチャグチャになるよ」
「いいよ」
私はその場でくるりと回った。一回転する前に、体が後ろに倒れる。受け止めてくれる固いクッションは、何十メートルも下にある。
フェンスの向こうにいる彼女と目が合った。私は嬉しくて笑った。追い風が私の体を空に浮かせた。
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