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高校二年の春のことだ。私は彼女と出会った。
「お隣さんだ、わたし裕貴、よろしくね~」
「…どうも」
第一印象は、男みたいな名前。
次は、すごいふわふわした子。
隣の席ということもあり、彼女とはよく話した。というより、彼女は本当にぽわんとしており、忘れ物や居眠りが多かった。
補習でも赤点を取るほどの頭の悪さに、何度勉強を教えたことか。五回目あたりで、早々に数えるのを止めた。
彼女は学校で孤立していた。私と同じだった。
派手な顔のせいでやっかみの多かった私は、そんな彼女に親近感を抱いた。はみ出し者同士、仲が深まるのは早かった。彼女といる時間が長いからなのか、告白される回数も格段に減った。
全部彼女のおかげだ。彼女はまさに私にとって天使のようだった。
しかし、そんな日々も長くは続かなかった。
「りえじゃーん、おっひさー!」
それは朝、クラスで彼女と昨日話題になったSNSの投稿について話している時だった。
女が私の名前を呼んで、堂々と入ってきた。
女の名前は、愛莉。二年で一番強力な女子グループのリーダーである。
彼女には誰も逆らわない。いじめが起こっても見てみぬ振り。
私が学校で孤立しているのも、すべて彼女のせいだった。以前、友人の彼氏を私が寝取ったとかで詰ってきて以来、事あるごとに絡んでくるのだ。
愛莉は、彼女の机の上に無遠慮に座った。舐めまわすように彼女の体が見られる。そして、一通り気が済むと、こちらに嘲りを含んだ台詞を吐き掛けた。
「アンタ、男漁りは止めて女に鞍替えしたんだ」
机の上に置いた手に力がこもる。私はできるだけ平静を装って返した。
「違うよ、ただの友達。それに男漁りなんてしてない」
「えー、でもさ、コイツといるってことはそういうことでしょ」
愛莉が彼女の髪をわし掴んで無遠慮に引っ張る。相当痛いはずなのに、彼女は一切抵抗を見せない。クラスの誰も、私達を助けようとしない。私は自分でも驚くほど低い声で、愛莉を止めた。
「やめて、離して」
「冗談よ、冗談、そんなムキになんないで」
私の言葉に、愛莉はあっさりと彼女を解放した。
「アタシはさー、これでも心配してんのよ。この女、魔性のレズビアンだから」
彼女の背を、愛莉はどんどん叩く。彼女は全く抵抗を見せなかった。俯いた顔に、どんな色が乗っているのか。私はそればかりが心配だった。
「こいつ中学の時、アタシの妹に告ってきたのよ。もー、マジきもくてさー」
その後も女はペラペラと、やれコイツの初恋は近所に住んでるパブの女だったとか、やれ初体験は小6で終わらせたとか。だから気を付けてねと。根も葉もない話を延々と繰り返す。
女王によるありがたい演説は、予鈴が鳴るまで続いた。
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