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7話 最終話【託されたもの、受け継ぐ者。】
壱乃峰の森に 雪は降り積もり、樹々を 白く染め上げる。
皆が眠りに就いたかのように静まり返る中、峰のアカマツの針葉からは、歌声のような葉音だけが、木霊している。
育まれし 高き素養は、輩出されし 善き巫女へと。
善き巫女たちが成す 神託は、やがて皆を 善き森の姿へと、導こう。
樹々よ 眠れ、安らかに。
樹々よ 育て、健やかに。
暖かな、陽光 煌めく、春を 待ちながら。
峰乃 赤松が その葉音を奏で終えると、訪れた雪雲は しんしんと雪を降らせる。
皆の無事を見守りながら、峰乃 赤松は、眠りの唄の 言の葉を紡ぐ。
「…皆、安らかに眠り続けるが善い。
山の神様は、『今冬は、大きな雪折れなども無く。』 と、お伝え下さっておりますゆえ。」
「…皆、巫女の合図に依る、大いなる変革の開始となる 来春の目覚めまで、安らかに眠り続けるが善い。
山の神様は、『来春より、樹々の芽吹きは、神託や 巫女の指示に依らずとも、皆の想いにて芽吹くが善い。』とも、お伝え下さっております。」
「続いて唄うは・・・。
皆の、開葉開花や 実りの豊凶の、あらましを告げる 言の葉・・・。」
「では・・・ 来たる 吹雪が、静まる頃合いにて・・・。
唄いだすとしようか。 来季の、皆の生命活動と。。。」
「是に加えて、森の調和を以って 極相林と 成す、神託の言の葉が紡がれた、眠りの唄の第弐楽章を。」
マルバマンサクは、融け始めた雪を押し退けるように、その枝先を 春の陽光の下へと、勢いよく跳ね上げた。
それを合図に、峰乃 赤松は、眠りの唄 最終楽章の言の葉を、紡ぎ始める。
「春に先ず咲く マンサクが、春の訪れを告げる頃。
眠りの唄にて 紡がれし言の葉は・・・ 神事や 今季の予言、神託の遂行。」
「じきに… 此の花も、開花となろう。
其の頃合いにて、唄いだすとしようか。」
「『総ての素養に秀でた者が出現する』と予言する、最終楽章を。」
「そして神託と 私のお役目は、此の者と 知識の素養に秀でる者とに依って、遂行されよう。。。」
その身の 間際に咲いた、黄色い十字の花を愛でながら。
眠りの唄を 唄い上げた、峰乃 赤松は、皆に春の訪れを告げるべく、鏑鈴を振り鳴らした。
峰から 聞こえる、鈴の音・・・。
シャン… シャン・・・ と鳴り響く、綺麗な音色は・・・ 鏑鈴。
・・・そう。 私のお花の、鏑鈴は・・・ 舞に贈った、私の想い。。。
「なんか・・・ すごい言の葉を、聴いたような。。。」
鏑鈴の音色で目覚めた 栃実は、そうつぶやきながら、ゆっくりと目を開いた。
ずっと眠りながら その胸に抱いていた ヘアクリップを、開いた両手に乗せると、それに象られたアカマツの針葉は、融け始めた雪が反射した春の陽光に照らされて、眩い光を放つ。
「ここに・・・ 舞の、大切な想いが。。。」
舞から託された それを、じっと見つめながら 栃実は、お互いに神具を贈り合った、舞とのことを 思い返した。
「…ねぇ、舞。 いま、受け継ぐね。 あなたの大切な、想いを。」
栃実が、神具に込められた 舞の素養と記憶を紐解くと、針葉は それに応えるかのように、煌めく。
煌めきは 球状の光となって、栃実を包み込むように展開すると、込められた舞いの素養を、森に吹く そよ風に乗せて、栃実へと伝授した。
栃実は、その身に宿し受け継いだ、古流と山桜流を 合わせて昇華された あまりに高い 舞いの素養に、
「本当に・・・ 素敵な舞い。。。
伝説の舞姫が昇華して 新生した舞いを、私は。。。 」
と、つぶやくと、神具の煌めきは、舞の記憶や想いを 様々な映像へと転換させた。
栃実は、それらの大切な想い出の一つ一つを、大事に その身に宿していく。
「舞も、同じ想い。 そして、巫女を拝命してからも 一緒に・・・。」
やがて、すべての想い出を受け継ぐと、栃実は、煌めきの奥から発せられた、優しい光が転換した映像に気付いた。
「・・・こっちの想い出は、みーちゃんが…。
瑞樹さんの 記憶の種子を 舞に託して、知識の素養を高めたところね。。。」
「・・・あれ? ということは、もしかして。。。」
神具に込められた、舞の素養と想い出が発する 煌めきの収束と交代するかのように、優しい光は輝きを増す。
かつて 舞に受け継がれた、瑞樹の知識の素養が発する その優しい輝きは、再び 栃実を包み込むと、その豊富な知識を 森羅万象の映像へと、転換した。
すぐに、瑞樹の知識の素養をも その身に宿し受け継いだ 栃実は、開いた両手に 煌めき 輝く、ヘアクリップを見つめる。
それに象られた樹々の葉は、舞の 煌めくアカマツの針葉に寄り添うように芽生えた、瑞樹の 優しく輝くブナの葉の、2種の素養を表す神具へと、変化していた。
「壱乃峰の歌姫として、みんなの指標にもなってる 私が。 えぇっと。。。
伝説の舞姫… 舞の素養を受け継いで・・・。 さらに・・・。
知の巫女に成られた 瑞樹さんの、知識の素養にも秀でて。。。」
「『総ての素養に秀でた者』って・・・ 私のことだったの!!?」
春の目覚めに起こった、あまりの出来事に驚いていた 栃実は、しばらくして 落ち着きを取り戻すと、神具のヘアクリップを手にした。
「でも、これで… 舞と・・・。 みんなとも、ずっと… 一緒ね。。。」
ヘアクリップの ブナの葉が、優しく輝くのを見ると、栃実は、
「知識が… アイデアが、想いが・・・ 溢れてくる。。。
…そう。 私なら、出来る事が。 そして、みんなと一緒に。。。」
と 独り言ち、その考えを巡らせ始めた。
豊かな天然林の樹々は目覚め、辺りの新芽が ふくらみ始めても、栃実は まだ冬の姿のまま、今後の事を考え続けていた。
・・・支援は、舞の巫女拝命… だけじゃ、終わらないよね。
峰乃 赤松様と成られてからも・・・。
総ての素養に秀でた私なら、巫女の お務めも、お役目の極相林も…。
何か、こう… 出来る事が、あるはずだし…。
瑞貴にも、知識面でサポートしてもらって。。。
いっそ 桂さんも、巻き込んで。。。
総てを、最も善い方へと… 導くためには・・・?
巫女には・・・ 成らない。
瑞貴が そうしたように・・・ 私も、みんなと一緒に。。。
お唄や、舞いも・・・ もっと、楽しめるものに… ならないかな?
んで、みんなで… やっぱ、楽しく!
持ち味を活かすような手法にして・・・。
うん! 最適化したい!
そして、私は。。。 ”とっち”としては、これから・・・。
やがて、考えをまとめた 栃実は、それを皆に宣言するのを決意すると、これまで 巫女舞いのために伸ばしてきた 長い後ろ髪を、肩の辺りで切り落とした。
さっと髪型を整えると、軽くなった後ろ髪を 神具のヘアクリップで留める。
栃実の変化に驚く 瑞貴を伴って、峰乃 赤松の居所に至った栃実は、その考えた事柄と 宣言の内容を、二人に話した。
「眠りの唄に ありました通り、山の神様よりの神託は・・・。
峰乃 赤松様と 私と 瑞貴とで、遂行したく存じます。」
「栃 姉様…。 私も そのつもりで、おりました。」
「…うむ。 では、其の宣言は… 今春の 開花や実りの豊凶の指示にて、致すとしよう。」
大平岩の舞台の前に立つ 栃実は、2種の葉が象られたヘアクリップを皆に見せると、まずは、その想いから話し始めた。
「伝説の舞姫 舞の記憶。 知の巫女と成られた 瑞樹さんの知識。」
「これらを、この身に宿し受け継ぎ 『総ての素養に秀でた者』と成った私は、次代の樹の巫女『峰乃 栃』と、成れるのかもしれません。」
「でも・・・ 私には、そうは思えないのです。
この高い素養は、私 個人でなく、壱乃峰の森に活きる 全ての樹々のために有るのでは? と、思い至りました。」
「さらに、私は 考えました。
私が 舞の巫女拝命を支援してきたように、これらの素養を皆様のために役立てる、方法を。」
「では… これより、その方法であります、『最適化』についての宣言と内容の説明を。
そして、『最善化』につきましては、その 概要の紹介を、させて頂きます。」
栃実は、神具のヘアクリップを装着すると、皆に向けて、芸能に関する変革となる 最適化について、語りだした。
まず、最適化を行う目的は、お唄や 舞いの、高い素養を育むことです!
これらの、芸能に関連する事柄を、最も適した かたちへと変革することで、高い素養を育むという目的が成されるのでは… と、私は考えました。
では、その手法ですが、お唄に関しましては。。。
長らく 活動休止していました、”とっち”としての芸能活動は・・・ 現役を引退と、させて頂きます!
そして、これまで… 壱乃峰の歌姫として、さらに、皆様の指標としましても、お唄の披露をしてきましたが。。。
今後は、私 個人のパフォーマンス能力の向上よりも、後進の育成となるような活動へと 最適化し、お唄の高い素養を育んで行きます。
さらに 皆様には、歌という芸能を より楽しんで頂きたいとも考えまして…。
”とっち”としての 歌やライブパフォーマンスは、新たな才能を持つ この娘たちに受け継ぎ、より新たに洗練された歌やライブをお届けして行きます。
紅葉と、楓。
この双子のアイドルが、その持ち味を活かして 新たな お唄を披露する暁には、きっと、お唄の素養も より善く育まれる事と、成るでしょう。
次に、舞いに関連する事柄の、最適化につきまして。
伝説の舞姫 舞による、新たな舞いのスタイルは、私が受け継ぎます!
『昇天乃舞』を観た 私は、3つの事を考えました。
ひとつは、皆様もご存じの通り… 舞の素養を受け継いだ私が、その舞いを継承するのが、最も適していること。
もうひとつは…。
古流と山桜流をミックスして昇華された、新たな舞いのスタイルは、従来の 祭典や神事向けの奉納舞いよりも、芸能としての舞踊に適している、と。
そして、芸能に特化した 新たな舞踊の創出は、舞いの素養や文化の底上げにも つながるとの考えに至りました。
これらを実現するために、私は 新たに、芸能に特化した 歌や ダンスのトレーナーとなり、そのレッスンのための場を創る事と、致しました。
なお、その本拠地に関しましては、今季にオープンされます ホオノキ樹洞のカフェを、予定しております。
祭典や神事向けの奉納舞いに関しましては・・・。
現在、唯一の流派であります山桜流が… これまで善くご指導頂きました 山桜師匠が、舞いに専念できるように。
私は、山桜流と・・・ 袂を分かつ事と、致しました。
”とっち”の現役引退とも関連しますが、これまで山桜師匠が受け持たれていた芸能活動のマネジメントや、祭典などのイベントプロデュースは、私が新しく芸能事務所を開いて、受け継ぎます。
これにより、山桜流は、本業であります 舞いに純化できますので、神事に向けた舞いの 高い素養を育む一助と、なりましょう。
・・・以上、芸能関連の事柄を、最も適したものへと変革する 最適化についてを、お話しさせて頂きました。
これらの最適化により、お唄や 舞いの素養は より高められ、また、皆様には、新たな芸能としての 歌やライブパフォーマンスをも、お楽しみ頂けるかと 存じます。。。
「ここで、皆様の気分転換も兼ねまして・・・。
まだデビュー前では ございますが、紅葉と 楓の 歌を、1曲 披露させて頂きます。」
まだレッスン中の仮歌ながらも、とっちの才能を受け継ぐに充分な素質の、紅葉のライブパフォーマンスと 楓の歌声。
そして、栃実が発揮した 聴衆にも配慮した高いプレゼンテーション能力は、
「芸能面の最適化を、安心して任せられそう。」
「とっちが創る、新しい歌やライブ、面白そう。 楽しみね。」
などの、良い感想を もたらした。
皆の 期待に満ちた笑顔に安堵して、栃実は 一息つく。
峰乃 赤松の神具と その制作者の桂を紹介すると、栃実は、最善化の概要について、話し始めた。
次の 最善化につきましては、巫女装束や神具の創作と、神託である極相林化への道標。
この2つの事柄につきまして、総てを 最も善い方へと 導くための、概要を紹介しまして、私からの お話しを 終えたいと思います。
私が、まず最善化したいと考えましたのは、高いクオリティの創作物を生み出す、最も善い方法についてです。
ご覧の通り、峰乃 赤松様の巫女装束や 採り物の鏑鈴は、とても素晴らしい出来栄えですよね。
これ程までに高いクオリティの創作物が 生み出された事は、すなわち、桂さんの”物創り”という、これまでにない新たな才能の出現と成った、という事。
さらに私は、これらの創作を支援した経験をもとに、その際に助言されました、瑞貴の巫女知識であります、
『より善いものを創作するためであれば、実現可能な他の者に制作を委ねてもよい。』
との一文ともあわせて、考えました。
まずは、巫女装束や神具に加えて、祭典や神事に関する創作物の制作を、桂さんに一任します!
そして、次に最善化するべきと考えたのは、善い創作物を創り続け、次代へと継承するためには、どうすれば善いか。
この事につきましては、桂さんには、創作意欲の赴くままに 様々な新作を創出してもらいながら、のちには、後進の育成も担って頂きたいと、考えております。
もちろん、創作活動の他にも、『みんなで楽しく活きる』ことをコンセプトとしまして、出来る事柄は どんどん最善化して行きたいと、考えてます!
なので… 皆様! ご要望や、善いアイデアがありましたら、どうぞお気軽に、私に お伝え下さいね♪
愉し気な笑顔から一転して、凛とした表情になると、栃実は、最も伝えたい その想いを、皆に告げた。
・・・皆様。 思い返してみて下さい。
これまでの 樹の巫女が、お独りで、どれだけ多くの お務めをなされ、どれだけ重要な お役目を遂行なされたかを。
皆様。。。 私の想いに、耳を傾けて下さい。
私たちが支援したいのは、舞の巫女拝命のみならず。
峰乃 赤松様と成られた、樹の巫女の お務めを代行することで、お役目と 神託の遂行を・・・ 支援したいのです!
そして… 皆様。 どうか、ご理解下さい。
樹の巫女にも成れるほどの、高き素養に秀でた者が、その支援をしたいと、願っていることを。
最後に、森の調和が保たれた姿であります、極相林ですが。。。
これまでは 『先人が夢見た 理想郷』と、されてきました。
しかし… 皆様。 今では、この森には・・・ 私たちが います!
ご神木の系統である、樹の巫女 峰乃 赤松様。
森の語り部、瑞貴。
そして 私は、総ての素養に秀でた者と、成ることが出来ました。
支援し 協力し合う、私たちならば…。
極相林へと至る、最も善い道標を示すことが出来ると、確信しています!
そして、ゆくゆくは・・・ 皆で この壱乃峰の森を、理想郷たる極相林へと、導いて行きましょう!
皆の盛大な拍手を受けて、演説にも似た 宣言と概要説明を終えると、栃実は、瑞貴と一緒に、高台へと向かう。
いつものように、足早に山道を上る その後ろ姿を見ると、瑞貴は、栃実を呼び止めた。
栃実の後ろ髪を留めているヘアクリップに差し込んだ木漏れ日は、アカマツの針葉を煌めかせ、ブナの葉を優しく輝かせている。
「栃 姉様。。。 いつも… 速すぎですよぉ~。。。」
「あぁ、みーちゃん…。 ゴメンねー。
いつもの早歩きのクセ、なかなか抜けなくて。。。」
「それ・・・ よりも…。
ヘアクリップのブナの葉は、もしかして… お母様の。。。
ふぅー。 だから・・・ なのですね。 総ての素養に、秀でられたのも。」
「・・・うん。 そうよ、そーいうコト。
みーちゃ… うぅん、瑞貴なら もう解ってると思うけど…。」
「今の私たちは、もう…。 共に皆を導く、指標であり 道標。
だから… ね。 これからは、姉様じゃなくて、”とっち”って、呼んでほしいな。
私も 瑞貴って、呼ぶようにするから。。。」
「・・・はい。 栃ねぇ… とっち!
今後とも… じゃなくって。。。 これからも、よろしくね。」
「うんっ♪ 瑞貴、よろしくね!」
笑い合いながら、想い出の詰まった 書棚に着くと、瑞貴は、見えない扉を開いて その中へと。
涼やかな表情で山道を上ってきた、峰乃 赤松は、栃実の姿を見ると、
「…なぜかしら。 此処が、懐かしく感じるのは。。。」
と、独り言ちる。
栃実は、峰乃 赤松に寄り添うと、書棚から戻った瑞貴を呼び寄せた。
かつて、共に学び合い 修養に励んだ 三人は、今では、理想郷へと皆を導くため その想いを馳せている。
瑞貴は、ひときわ大きなブナの 記憶の種子を手にすると、それを紐解いて、極相林の映像を展開した。
瑞貴…。 この光景が… 先人が夢見た、森の調和が保たれた・・・。
森の… 私たち樹々の… 行く末の、姿なのね。。。
程よく差し込む木漏れ日を受けて、様々な樹々の葉が 生命力に満ちた輝きを放ってる。
そう… とっち。 私達が、お互いに譲り合って成長することで、このように皆は等しく陽光を浴びて、元気に育つことができる。
…うむ。 天雷にて授かりし、山の神様よりの 英知の通り。
緩やかに 穏やかに せせらぐ川の向こうには、陽光煌めく 開けた空間が。
遥か以前から そこに在るだろう 朽ちた倒木からは、新たな樹が芽生え、若木が生育する。
是が、倒木更新。
新たな育みの座を形成し、樹々の世代交代を担っている、森の姿。
お母様の書物にも ありましたよ、峰乃 赤松様。
皆が元気に育っていて、美しい花を咲かせ 多くの実りを振舞っています。
その根張りまでもが元気ですから、豊かな土壌をしっかりと掴んで、崩落のような災厄は起こりにくくなっています。
これ程までに調和の保たれた森に活きる樹々なら、競争もなく、生命活動への余裕ができるでしょうね。
栃実さん…。 風にそよぐ樹々の、枝葉の舞い…。 とても優雅ですね。
奏でられる葉音も、生命への喜びを唄っているかのよう。。。
そうですね・・・ 峰乃 赤松様。
そうしてできた、あらゆる余裕は、このように お唄や舞いなどにも充てることが出来る。
皆は 心まで豊かになれるから・・・。
皆を… 理想郷へと、導くことが 出来たなら。
私たちの想いや願いは、きっと叶えられるでしょうね。。。
「・・・たどり着きたいね。 みんなで、ここに。」
「辿り着きましょう。 皆で、ここに。」
「…うむ。 必ずや、成し遂げよう。 此の神託を。」
最善の、お務めの代行について話し始めた、栃実と 峰乃 赤松を二人にした瑞貴は、ご神木と成った ブナ大樹の枯死木に寄り添う。
その木漏れ日からは、皆を優しく見守っているかのように、暖かな春の陽光が差し込んでいる。
お母様が遺してくれたのは、みんなの希望や 道標。
共に歩む この道は、あなたが眩く 照らしてくれる。
そして・・・ やがて辿り着くでしょう、私たちが還る処までの道のりは、みんなで織りなす物語と、成るでしょう。。。
極相林と成って久しい、山の神々が住まう神界の森。
穏やかに森の中をせせらぐ川の、水源となる澄んだ泉には 壱乃峰の森が映し出され、山の神は、その森の調和や樹々の生命活動を、見守っている。
伝達された、森の出来事や 樹々の想いを、結実した その大きく艶やかな種子へと宿し終えた 椿は、泉へと向かうと、泉の畔で壱乃峰の森の様子を記録している山の神に、呼びかけた。
「・・・瑞樹。」
その呼びかけに続いて、美歌が、
「瑞樹の記録は、物語のようで善いわね。」
と、話しかけた。
「…光栄ですわ。」
とだけ返答した瑞樹に、美歌は続ける。
「今季の物語が、どうなるか・・・。 私も、楽しみにしております。
貴女が見守る 壱乃峰の様子は、如何かしら?」
「…ふふっ。 ご覧のように… 皆、健在ですよ。
ほら、あの娘たちも、善く皆を導いてくれております。。。」
「~すぐ行くから、カフェで待ってて。」
凛とした声で 微笑みながら、紅葉 と 楓に声を掛けた とっちは、カフェ『nolia』の2階にある事務所の窓から、顔を出す。
その視線の先は、このホオノキの巨樹が大枝を落としてくれたおかげで 開けた空間となっていて、早春の暖かな陽光が まだ小さなコナラの若木にまで降り注いでいた。
その、こなたの居所では、描き上げられた自身のイラストを見ながら、瑞貴が 少し気恥ずかしそうに、喜びの笑みを たたえている。
「素敵なイラストを、ありがとう。 とても上手に描けましたね、こなたさん。」
スケッチブックを こなたに手渡すと、瑞貴は、朝日に照らされた高台の神木へと視線を移して、つぶやいた。
「お母様・・・。 壱乃峰の森に、また新たな才能を持つ娘が、現れました。
…ふふっ。 この森の未来が、楽しみですね。。。」
「樹々は唄い、風に舞う」 第二部 ~巫女編~ 完。
第一部 ~樹々の恵み編~ に つづく
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