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さあさあ、伯父さん、こちらへどうぞ。
このたびは、遠路はるばるおこしいただきまして。
通夜が始まるまで、どうぞこの部屋でお待ちを。
そうですねえ、突然のことで、自分も心の整理がまだついていなくて……。
親父が町工場を立ち上げてから、もうかれこれ四十年。
ずっと仕事一筋で、去年、今の親会社に吸収合併されましたけれど、かえって現場で集中してがんばれるって張り切っていたのに、こんなことに……。
急に容体が変わって救急車で運ばれて、それからすぐでしたねえ。
心の準備も何もあったもんじゃない。
ピンコロってのはよく言いますがね。そういうことかな、って家族で慰め合ってますよ。
世間は家族葬とか、こじんまりとしめやかに送るのが普通になってますけど、こんなご時世だからこそ、せめて連絡がつけられる人には声をおかけしようと思いまして。
おかげで、こんなにたくさんの人に集まっていただきました。
本当にありがたい限りです。
親父はあの通りの人間でしたから、葬式を飾りたてるのも、どこかそぐわないような気がして。
それでも、ちょっと変わった趣向があります。
こちらが葬儀場です。
ちょっと祭壇の真ん中をご覧ください。
ええ、遺影です。いい笑顔でしょう。
何かこっちを見ているみたい?
笑顔がさらにぱあっと広がったように見える?
そうなんです。よく気づいてくださいました。
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