試練の夜

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 ──苦しい。息が、出来ない。  喘ぐように息を漏らし、墨は体を丸めた。  間遠く金属がぶつかる音がする。  鎖だ。  けれど、その鎖の音をかき消すほど大きく鼓動が打っている。  早く、  強く、  血潮が沸騰するような衝動も体をめぐっている。  駆け回る衝動は体中を跳ね返り、どんどん大きくなっていく。 「おお、目覚めたか」  獲物の匂いだ。  衝動は声の方向に飛び掛かろうとする。  墨の体は毬のように跳ねたが、その首を繋ぐ鎖が小さな体を引き止める。  伸びきった鎖が喉に食い込み、泡を吹く。  ぐうう、と獣のような呻きと共に、墨は地面に頽れた。  苦しい、痛い、その意識が強くなると衝動は腹の底で大人しくなる。  墨はようやくはっきりと自分の状態を自覚した。  剥き出しの地面に倒れ込み、首を鎖で柱に繋がれる。  衣服は夜着のままだが、土に汚れて薄っすらと汚れている。 「目覚めたな。覃墨」  目がよく見えない。だが、声は老爺のものだ。 「聞こえるか。おお、聞こえるようだな」
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