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錚は王府の臥室で覚醒した。
すぐそばには珠簾をおろした卧榻があり、その足元で一振りの剣を抱えるようにして錚は浅い眠りについていた。
錚は、ゆっくりと目を開け、闇を見据える。
真夜中だ、周囲は静まり返っている。
卧榻の他にも様々な調度品が並ぶものの、どこか寒々しいほどに広い臥室で、錚は膝を抱えている。
ひとつに結わいた髪が静かに衣擦れの音を立てた。
「──……天が騒いでおるの」
「試練の夜でございましょう。申し訳ございません」
「姫か……末の」
墨染の衣を身にまとった錚は、静かに頷いた。
それから、卧榻を振り向く。
さまざまな貴石でこしらえた珠簾は、少ない灯りにでも美しく輝く。
その中の影。
錚は畏敬の念を込めて頭を下げる。
「選ばれるであろうか……すぐに」
「天の御意志でしょう」
「姫奴に成れぬ者の声を聴くことは、いつになっても慣れぬものよ」
涼やかな声がする。
長く艶やかな黒髪は絹糸を流すように垂れ、上等な絹でこしらえられた夜着よりも艶やかだ。
「錚。そちが選ばれた夜も、天が騒いでいた」
「……はぁ」
「懐かしいな、何年も、いや、何十年も前のことよ」
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