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錚は試練のことを覚えてはいない。
正しくは覃家の祠堂に入ってからのことを、何も覚えていない。
ただ、ひたすらに苦しみ悶え、叫び続けた。
恐らく、当時の王族の姫の姫奴も、姫たちも、この異様な気配に気づいていたことだろう。
その次の記憶は王府でのことだ。
姫奴になった錚は、自らの主である姫と会った。
──妾の姫奴は女か。
その声は嬉しそうでも悲しそうでもなく、ただひたすらに平坦だった。
まだ十にもならない少女は、静かに錚を受け入れた。
それがのちの現国王であり、天家宗主となる主。
長姉であり、男の兄弟が生まれなかった彼女は、この頃には既に女王として国を継ぐ運命にあった。
錚の前に、八人もの覃家の子供たちが試練を迎え、脱落した。
もう何年も姫奴を待ちわびたはずの少女姫は、錚を前にしても、何一つ変わった様子がない。
錚はそれ以来、姫に仕えた。
華燭の典を経て女王に践祚し、そして、子を成すまで守り続けた。
その女王は珠簾の奥、眠るでもなく座り、自らの娘の姫奴──特別な奴隷が生まれる瞬間を受け止めている。
「神子の時は、五人狂った。ふたり目も三人か……、末の娘だ、少ない方がよい」
「覃家に生まれたからには、皆、王家のために生きる覚悟をしております」
姫奴に選ばれてこそ悲願。
一族で王府に仕え、そして覃家の血を途絶えさせず、王家を支える。
天家は長子が王位につく。
そして、長女は神子として国のために祈り続ける。
そのため、長女の姫奴が一番の重きを置かれ、受難を辿る。
覃家の子はみな知っている。知ってはいるのだ。
どれほどの意味を持つかは、その身をもって体感するまで理解することは出来ないが。
「この者は、姫奴になるべきものだろうか」
主の言葉に、錚は黙する事しか出来なかった。
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