王府へ

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 ゆっくりと意識が浮上する。  体は泥のように重く、指先がまるで遠く感じる。 (……生きている、のか……?)  ぼやけた視界がようやく輪郭を結び、視界の端でぴくりと指先が動いた。 (動いた……)  それから遅れて、全身の痛みが戻ってきた。  墨は重い体を引きずるようにして丸まる。  どうやら、祠堂の地面に寝転がっているようだ。  体は妙に火照っていて、冷たい地面が心地よい。  じゃらり、と鎖の動く音がする。 「目が覚めたようだ」  降ってきた声に墨は身構えたが、例の老爺の声とは似ても似つかない。  逃げねばと体に力を入れようとしたが、腕は震えて体を起こすこともままならなかった。  祠堂の扉が明けられたのか、急にまばゆい光が射しこみ、墨の視界を焼いた。  咄嗟に顔を伏せた墨は祠堂に入り込む複数の覃家の男たちを見ることはなかった。  ただ、鎖が外され、体が軽くなったことと、すっぽりと入る樽に墨の体を無造作に入れたことだけは分かる。  痛い。  全身が。  自分の体ではないようだ。  必死で状況を探ろうとするも、痛みですぐに思考は霧散してしまう。 「気をつけて運べ。成り損ないなら困るからな」  樽は乱暴に揺れた。運び出されている。  男たちは墨を入れた樽を担いで祠堂を後にする。 (……敏……)  敏はどうしているだろうか。  突然いなくなった墨をどう思っているだろう。  いつまでも友人としてそばにいたのに。  剣術の稽古も、棒術も、なにも敏には勝てなかった。  揺れる樽の暗闇で墨は身を守るように自らの膝を抱えた──その時。 「小父さん! 待って!」  敏の声がした。
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