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姫奴ども
あたたかな光を、額に感じた。
不思議と体中を支配した倦怠感や痛みが薄れていく。
光。
薄闇の中に浮かんだのは女の白い腕だった。
あの晩、墨を連れ去った黒い両の腕ではなく、白い腕がそっと墨を包み込んでいる。
「──我が君……」
自然と自分の口から溢れた言葉に、墨自身が戸惑った。
しかし、その言葉は、視界を埋め尽くしていた光の形をはっきりとさる。
「我が君……我が命を持って、あなたに忠誠を誓う……」
光は少女の形となった。
墨に手を差し伸べる少女は、無垢そのものの瞳で墨を見つめている。
天籟更紗は夜を縫い取ったようにきらめき、少女の白い肌を引き立てる。
扇のような睫毛が頬にはっきりと影を作る。
墨より五つほど年上だろうか。
少女はこてんと首を傾げた。冠の金細工がシャラリと清らかな音を立てる。
「そなたが妾の姫奴か。会えて嬉しい」
なんて愛らしい声なのだろう。
少女は墨の手をそっと取った。
抱きしめられていると思っていたが、実際はどこも触れ合ってはいなかったことを、墨はこの時はじめて気づいた。
「名は?」
「墨。覃墨と言います」
「そうか、小墨か」
小墨。可愛い墨。私の墨。
その瞬間、墨の視界の霧は一斉に晴れた。
ぐんと世界が広がり、自分という一点を始点に意識が遠のき、姫と相対する自分を見下ろす。
美しい王女。
ここは……王府の祠堂だ。
女性王族たちが暮らし、限られた者たちしか踏み込むことの出来ない天籟国の最も奥まり、そして骨格でもある場所。
姫奴。
姫たちの奴隷。
その意味に震えている墨の首筋に、そっと剣が当てられた。
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