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二、ヴェネチアまで
姫が天籟国を出たその日、空はとてもよく晴れていた。
天籟の緑豊かな山々や、段々畑の風景に見送られる。
人々は珠簾の降ろされた輿の姫を見送り、墨はその声にこっそりと涙をした。
この先、姫を守ることが出来るのは、姫奴である墨だけだ。
祠堂で身に着けていた墨染の衣装を脱ぎ、王府の女官と同じ華やかな旗袍を身に着けている。
姫奴という影ではなく、侍女として付き従うこととなったのだ。
侍女の役割は徹底的に身に着けたつもりだ。
それでも、姫の身の回りの世話をし、仕えるという使命は変わらない。
天籟国の姫が欧州に嫁ぐということは、当然はじめてのことだ。
嫁入りの支度にしても、一事が万事、王府では官吏が右往左往して、前例や慣習、欧州での常識を確認した。
クリークヴァルト大使を通し、両国間で姫の嫁入りの工程が最終決定されたのは、出立のひと月前のことだった。
天籟国は欧州まで行くこと出来る船を持っていない。
ましてや王族が乗るような船となれば、更に難しい。
なので上海の港から、天籟更紗を欧州に輸出している専門業者の船を借りることになった。
上海まで馬車で進み、上海港からオスマン帝国領ポートサイドへ抜ける。
そこで、クリークヴァルト公国の用意した客船に乗り換え、ヴェネチアへ。
ヴェネチアからは鉄道で、クリークヴァルト公国へ向かう旅程となった。
はじめての船旅、墨も姫も酷い船酔いに襲われた。
墨は臥せる姫の世話をしている間に船酔いに慣れ、そのうちにポートサイドについた。
朝賀霞という少女と引き合わされたのは、そのポートサイドでのことだ。
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