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旅の友
──無礼だ。
船が出航し、半日船室で過ごした頃、墨は内心で憤った。
食事を運んできたメイドたちは不愛想で、四角四面の対応はするものの、姫や墨をじろじろと見る。
墨は姫と同じ卓で食事をすることはできない。
それなのに、墨に用意された食事は、いくつもの皿でゆったりと時間をかけて食べるコース料理だった。
墨が「自分の分は簡単でもいい」と伝えても、メイドは頷くだけで、引っ込んでは違う料理の皿を持ってくる。
姫は、視線で同じテーブルへの着座を促したが、墨は固辞した。
しかし、料理は運び込まれてくる。
祠堂であれば、部屋の隅で飯を掻っ込むだけで済む。
どんぶり飯や粽が食事のほとんどだった墨は、運ばれてくる様々な趣向を凝らした料理を前に、しばらく悩んだ。
一口あれば食べられそうな大きさの肉を、その何倍もの大きさの皿に、見たことのない葉っぱやソースで飾りける。
おいしいのかどうか、想像もつかない。
ただ、これから先、この料理に慣れなければならないだろう……。
墨は姫と共にクリークヴァルトの地で生きていくしかない。
そのために、必要なことだ。
仕方なく、部屋の四隅にある花瓶を乗せた小さなテーブルを移動させることにした。
メイドたちも流石に驚いたのか、目を丸めていたが、それ以上の反応はしない。
姫奴は椅子には座らない。
墨も、基本的には腰かけた姫の足元に座るか、傍に立つ。
同卓で食事することは不敬でしかない。
──毒見は、きちんとしてあるのだろうか。
姫はナイフとフォークを使い、淡々と食事を進めていく。
クリークヴァルト公国に嫁ぐとなってはじめてナイフとフォークを使うようになったとは思えないほど自然だ。
墨自身は椅子にこしかけて、慣れないフォークとナイフで食事をすることにくたびれた。
商船では天籟式の食事が用意されていたありがたみを嫌というほど感じる。
(天籟の姫をいただくというのに、こんな扱いを受けるのか)
天籟の文化を尊重していない。
そう感じる度に墨は反発を覚える。
本来ならば国の安寧のために祭祀を行う立場の姫が、天籟の地からこれほど遠ざかっていたことはないのだ。
メイドたちだけが入室するとき、朝賀は来ない。
墨が話しかけてもメイドは満足な反応もしない。
ちゃんと彼らの公用語で話しかけているはずなのに、あまりに反応がない。
しかし、墨の最大の屈辱は、メイドたちの態度のせいではなかった。
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