朝賀霞という娘

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 お茶が冷めないように、手早くするに限る。  折角の暖かい焼き菓子の類が冷めてしまうのはもったいない。  昨日はすっかり冷めた紅茶に、姫は少しだけ眉を下げていた。  今日はおいしくいただいてほしい。  霞に手鏡を持たせ、墨はその髪を手にした。  きつく編まれた髪を解くと、編み癖がついている。  左右と、後頭部の三つに毛束を分け、それぞれを編む。  それぞれの太さをかえることが見栄えをよくするコツだ。  三本の三つ編みを集め、後頭部の低いところでまとめてお団子にする。  墨は自分の髪を束ねている簪のひとつを抜き取った。  赤い漆の美しい簪だ。  その簪を、霞のまとめた髪に通し、固定する。  完成だ。  墨は自分の髪が乱れないよう、星を象った銀の簪をしっかりと刺し直した。  「まぁ、本当におじょうず」 「元々は別の女官が得意で、この一年で教わりました」 「うふふ。こんなに綺麗にしてもらえて、とても嬉しいです」 「あなたは昨日も今日も洋服を着ていますが、日本の着物は着ないのですか?」  なんの気なしに墨が尋ねると、鏡を覗き込んでいた霞の表情が一瞬曇った。  墨が自分を見ていると気づいてすぐに笑みを浮かべたが、初対面からにこにこと柔和な印象だった分、霞の意外な表情は墨の目蓋に焼き付いていた。  あまりにも切なく、もの悲しい目の色をしてい。
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