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ひとつの変化
翌日、霞は時間通りに姿を現さなかった。
姫が気にした様子で何度か扉を見ていたし、メイドたちはお茶の用意の手を一旦止めた。
様子を確認しようと墨が扉に歩み寄ると、天籟からついてきた数少ない臣下である衛士たちが何かもめている声がする。
恐らく霞だ。
ただ、衛士たちが霞を止めるはずもない、その違和感に墨はゆっくりと片手を袖の中に忍ばせ、もう片手で扉を開けた。
「ムオを呼んでください」
やはり霞が、懸命に衛士に話しかけていた。
扉の開く気配に、衛士たちは「助かった」とばかりに墨を振り向いた。
「もういます」
そう答えてから、霞のすぐ後ろに立っている船員に気が付いた。
昨日、霞と話していた男だ。
咄嗟に頭の中にあるポート・サイドからの船の中で顔を見た船員たちを思い返すが、この男の記憶はない。
つまり、貸し切っている一等客室の船員ではない。
「誰ですか?」
墨が男を見上げて尋ねると、霞もほっとしたように息を吐く。
男はにかっと歯を見せて笑いかけてきたが、墨は無視した。
「船員のアンドリュー・ブルー、ドリューよ。わたしと父の客室を担当している方なの。とても親切な方で」
「そんな彼がどうしてここへ?」
「わたしがお願いしてついて来てもらったの」
「お願い?」
墨は眉をひそめた。
何を言っているのか分からない。
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