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霞は一度ドリューと呼んだ船員を振り向き、それから、意を決したように口を開いた。
「姫さまと甲板に出ることは出来ないかしら」
「出来ません」
反射的に断る言葉が出た。
この部屋から出ることが出来ないからこそ、霞が話し相手として選ばれたのだ。
しかも、それはこちらの意志ではなく、公国からの指示で。
(……やはり、刺客か、間諜か……?)
霞への疑念がまた心の中でもたげる。
そんな墨へ、霞は熱心に語り掛けた。
「でも、折角の船の旅よ。ポート・サイドまでも姫さまはずっと客室の中だけで過ごしていたんでしょう? 一度だけでもいいの」
外に出せ。
外に。
どうして、私の姫を。
神聖で、もっとも尊い存在で、美しい姫を。
天籟から追い出しただけではなく、どうしてこの安全な船からも出すというのか。
「一度だけでも、姫さまに海の風景を見せてさしあげたら? これから、異国に嫁ぐのよ」
腹の底がカッと熱くなる。
「あなたは姫の話し相手。それ以上ではない、思い上がるな」
鋭い言葉に、見る見るうちに霞は青褪めた。
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