ひとつの変化

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 呆然としていた衛士たちも母国の怒鳴り声に、弾かれたように動き出した。  ドリューは舌打ちをする。  この男に力ではかなわない。  ならば、袖にしまっていた手に暗器を持ちかえる。  その途端。 「どりゃああああ!!!」  地響きのような声が響き、墨は自分の体が、ぽおんと投げ出されたのを感じた。  足が浮き、浮遊感に襲われる。  視界はゆっくりと動き、大きく目を見開いた霞は両手で口を覆い、衛士たちは真っ青になって駆け出そうとする。  その中で、ドリューだけは得意げににやりと笑っていた。  ドン、と体に衝撃が走る。  自分がドリューに抱き留められたと気づいて、屈辱で体が震えた。 「おいおい、大丈夫か?」  けろりとした声が降ってくる。  前のめりに倒れ込んだ墨を、荷物でも受け止めるようにドリューが片腕で抱えている。  自分で扉をこじ開けておいて、ドリューはけろっとしたものだ。 「離せ!」 「怪我ぁなさそうだな……って、ん?」  ドリューは不思議そうに首を大きく傾けて、墨の顔と身に着けた旗袍を見比べた。  それから受け止めた腕で、墨の体を無遠慮にまさぐりはじめた。 「!?」 「ど、ドリュー!?」  墨の無言の悲鳴と、霞の驚いた声が重なる。  胸をまさぐられる手に、墨は咄嗟に身体を引いた。  しかし、がっしりと抱き留めた太い腕は、簡単に逃してはくれなかった。 「ん? ……んん? まさかお前お」  ドリューが何かを言おうとした瞬間、  墨はその口に拳を突っ込むようにして黙らせた。  そして、自分の体を支えていた手を捻り上げて、着地する。 「妙な動きをしようとすれば、肩を外す」  そう宣言してから、墨は驚いたまま固まっている霞を見た。 「中へ」  ──これ以上、外では流石に話せない。
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