23人が本棚に入れています
本棚に追加
覃家の子に生まれ、姫たちが姫奴を迎えるころに子供であること。
その中で雷公に選ばれ、姫の特別な奴隷になること。
それだけが重要だ。
「天籟の王族の姫は、女神から力を与えられる。長子が国王となり、その姉や妹が神官として国に尽くす。そう決まっている。王族の女性にはその身を守るための姫奴が与えられる」
「男でも女でもいいなら、なんで女の格好してるんだよ」
「……天籟では姫奴が男だろうと問題ない。けれど、他の国で違うことくらい我々は知っている」
「だからって女装まですんのか?」
「姫を守るためならな」
墨はきっちりと喉元まで閉じ、幾重にも衣を重ねている。
美しくはあるが、実用的には見えない華美な衣装に身を包む。
旗袍は動きにくいが、油断させて襲うには十分だ。
霞はハッと息を飲んだ。
「──……まさか、この船に危険があると?」
「お前たちが公国の息がかかった人間とも限らない」
「え……?」
「公国は天籟を見下している、返答次第では生きては返せない」
大清の威光も陰り、欧米列強からの風が吹きすさぶ時代だ。
五年前には日本も大清に勝っている。
大清のそばにある天籟も無風ではいられない。
天籟の長い歴史の中でもっとも大きく、そして、もっとも困難な舵取りだ。
少しでも間違えば、天籟もいままでのようにはいられない。
姫奴は自分の姫を守る。
あの日、姫とはじめて会ったその日に感じた運命は、変えられない。
姫を守るためなら、何だってする。
自分の命も惜しくはない。
誰にも傷つけさせないためには奥深くに隠しておくのがいいに決まっている。
ふたりを睨む墨に、霞は悲しそうな目で微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!