ひとつの変化

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「わたしは幸せになれるんだと思いました。今までも、恵まれた環境で育ったのですが、結婚について、祖父母もずっと心配していましたから。──ですが、彼は亡くなりました」  誰も何も言わなかった。言えなかったのだ。 「はやり病で、しようがないことだったんです。母も同じ頃伏せり……結局は……。母のお骨を、母の母国であるイングランドに持って行ってあげたい……そのために父の旅についてきました。父は、わたしを日本から遠ざけたかっただけだと思いますが」  それで、この娘はこの旅に同行したのか。  ドリューは「そうかぁ」と頷きながらも、怪訝そうだ。 「……どうして日本を出なくちゃいけないんだ?」 「わたしは混血児ということで、日本ではまだまだ好奇の目もあります。その上に婚約者も母もと亡くし、呪いだという人もいました。朝賀の家は嫁ぎ先の心配をしたのだと思います」  異民族の存在は混乱をもたらす。  知らない分からないというだけで、相手を排除する十分な理由になる。  霞は、やはり、少しだけ色素の薄い瞳で、墨の黒々とした瞳を真っ直ぐに見た。 「墨、あなたは確かに姫を守ろうとしているわ」 「当然だ」 「英語や独語も頑張って覚えたのでしょう? わたしは母からいつの間にか教わったけれど、あなたは必死で覚えたのよね?」 「……必要なことは覚える。それが、姫奴だ」 「ええ。でも、姫さまはこの先、クリークヴァルト公国の大公妃になるのよ。『天籟の姫』ではなくなる」  霞の言葉は理解できる。  けれど、墨は納得が出来なかった。  姫は天籟の姫だ。  天を持つ王女。  やはり、理解出来ないのだ、天籟の他で、天籟の姫たちの神聖さを。  そのことを痛感させられるだけだ。  日本と言う、同じ東洋で育った霞でさえ、姫の神聖さを。  そう思えばこそ、墨の中で「姫を守らねば」という決意が強くなる……。
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