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「下船するのか?」
「ん、契約満了ってわけさ。元々ヴェネチアまでって契約だったしな。それに、あんな騒ぎを起こした以上、あのまま残るのもなぁ」
彼も甲板に連れ出したことが、咎められたのだろう。
限られた人間しか接触させないと明言していたクリークヴァルト公国のメンツも丸つぶれだ。
「……悪かった」
「あ?」
「だから、悪かったって言ってるだろ!」
耳が、熱い。
声は裏返って、怒鳴ったように大きくなった。
「がははは! お前もガキだなぁ!」
「うるさい!」
「まぁ、随分仲良くなられたんですね」
朝賀の親子もやってきた。
ドリューといた後に見ると、やはり育ちがいいだけあって、落ち着いている。
ドリューを押し返して、墨は距離を取る。
その様子を霞がくすくすと笑った。
その時、群衆の歓声が更に大きくなった。
さざ波にも似たその声に、全員が振り向いた。
「……きれい……」
霞はうっとりとささやく。
そこにはクリークヴァルト公国の国旗の色である深いグリーンのドレスを着て、公国の侍女たちを従えた姫が立っていた。
あのコルセットをしめ、ドレスのボタンを留めたのも、結い上げた髪にティアラを乗せたのも、墨だ。
天籟の姫としてではなく、公国の花嫁として、姫はヴェネチアの地を踏むことを選んだ。
「きれいだなぁ、お前の姫さまは」
「ふん。当たり前だろう」
天籟更紗の旗袍を脱いでも、姫はとても美しい人だった。
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