23人が本棚に入れています
本棚に追加
翌日、船の上と同じように、姫のもとに現れた霞の後ろに立っていたのが、この男、ドリューだ。
驚いた墨をみた得意げな顔が忌々しくも蘇ってきた。
「船を降りたのは知っていたが、一緒になるとは思っていなかった」
「オレもだ。別の船舶会社にでもやとってもらおうと思っていた時に、霞の父に声をかけられた。霞の護衛にってな」
「……確かに、護衛には向いてそうだ、力が強い」
「船で働いてれば、力はつくからな!」
カラッとしたドリューの笑顔に、墨はため息をつく。
「ずっと船なのか?」
「おう。十四で働きに出た。それからずっと船の上だ」
「想像できないな」
「オレはお前の生活の方が、想像できないんだがな。四六時中姫様のそばか?」
「当然だ」
「今は男の格好なんだな」
海を眺めていた墨は、自分の服を見下ろし、そしてドリューの方を見た。
姫奴の墨染の衣に、それが姫奴の正装だ。
男女の違いはなく、すべて揃い。上着と裤子の上下。
「別にこの服は男の服ってわけじゃない」
「そうなのか?」
「これが天籟族の普段の服だ。男女の差異はほどんとない」
「でも、姫さまのドレスみたいなのと、お前がこの間船で来ていた服は全然違うじゃないか」
「あれは大清の服だ」
「タイシン?」
ドリューの顔に大きな疑問符が浮かんでいる。
首をかしげて不思議そうに尋ね返される。
「チャイナ」
「おー、チャイナ! オレの地元の男爵さまも、チャイナをたくさん持ってる」
最初のコメントを投稿しよう!