三、クリークヴァルトへ

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 どこまで通じているか分からないが、ドリューは大きく何度も頷いた。  旗袍は華やかだ。  裾も長く、引きずるほどだが、姫たちの仕草はとても優雅で美しい。  クリークヴァルトの用意したドレスのように体の線がはっきりと分るものを見たことのなかった墨は、はじめ面くらった。  コルセットや編み上げのひもも、今ではしっかりと締めあげることが出来るが、どのくらいの強さまで加減していいのか、探り探りで何度も練習をした。  霞やメイド、そして、お針子たちもみな、驚くほど腰を括れさせている。  苦しそうだ。  天籟族の衣装なら、体を締め付けない。  大清から来た旗袍もそうだ。 「僕は、ドレスは着たくないな」  姫の腰は誰よりも細い。  元々華奢だと思っていたけれど、こちらに来て、欧州の女たちに囲まれるとなおのことだ。  折れてしまいそう。  そんな姫の体型を、みながこぞって褒め、うらやましがる。  不健康で不思議な習慣だ。  どことなく纏足を思い出させる。  何度か練習はしたけれど、墨自身はコルセットを自分でうまく縛ることはできなかった。  そんなことを考えて姫たちを見ている視界に、ぬっとドリューが割り込んできた。   真顔だ。真剣そのものの目で、真っ直ぐと墨を見ている。  墨が驚いて、のけ反るのも気にせずに、まじまじと。 「お前、ドレスも似合いそうだぞ」 「うるさい」  腹いせ紛れに墨は、ドリューの足を勢いよく踏んづけた。
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