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クリークヴァルト公国のお召列車の横にずらりと並んでいた使節団は、顔を上げずに姫の乗車を見送っていたが、影で働くメイドたちの視線は露骨だ。
街の人々も、どこぞの国の姫を見れたという喜びと共に、東洋の国への侮りを感じる。
見下されて、いる。
ぐっと歯を噛みしめた時、視界の端で何かがキラリと輝いた。
咄嗟に墨は袖から武器を取り出そうとして、唖然とした。
使節団の奥に、ロープを張った一角があり、そこに写真機を構えた男たちが何人も並んでいたのだ。
墨がそちらを見たので、姫もその視線を追う。
そうして、一斉に写真機が音を立てる。
びっくりした墨が姫の前に躍り出て、姫の顔を扇で隠した。
墨染の衣の袖にはいくつかの道具を仕込んでいる。
鉄扇もそのひとつだ。
本来は閉じて武器として使うが、姫を隠す時に使う時もある。
朝賀がそっと墨に耳打ちした。
「ムオ殿、大丈夫です。新聞記者ですから、姫に危害は加えません」
「だが、天籟の姫だ」
「……そうですが、こちらでは王族は顔を見せるのです。写真や肖像画、王女たちも。天籟国のように姫の名を王と神子以外は知ることを許されない、そのような状態は他の国では考えられないのです」
霞も心配そうに墨を見ている。
いつもよりも華やかなドレスに帽子を合わせた霞は、お召列車や使節団にとても馴染んでいる。
──これが、こちらの流儀か。
記者たちは鉄扇を広げた墨のことも写真に撮っている。
天籟国にも新聞は当然あるが、祠堂に取材は入らない。
この写真も、新聞に載るのだろうか?
墨は鉄扇をしまい、また姫のそばに控えた。
また閃光が何度も瞬く。
その度に、墨の中に怒りか、恐怖か、正体も色も分からない感情が浮かんでは混ざり合い、そして、ゆっくりと体にしみいるように消えて行った。
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