天籟の冠

2/3
前へ
/78ページ
次へ
 ドリューは目を輝かせながら、小さな写真を両手で捧げ持って、上下左右、角度を変えて何度も見る。 「きれいだなぁ、姫さま。これが正装か? 見たことがないな、冠も、何かこう鳥がバサァって翼を広げたみたいだ」 「もっと賢そうなことが言えないのか」  ふん、と鼻で笑いながらも、まんざらでもなかった。  正装の姫は最もうつくしい。  極上の天籟更紗の旗袍に、金糸銀糸で縫い取りをした大衿と帯。  歩くたびに涼やかな音を立てる金細工の冠。  そんな衣装は飾りに過ぎない。  姫は、墨の姫はうつくしい。  秋空のように透き通った目や、初雪のような肌。この世界で一番清らかなもので出来ている。 「この冠は、天籟国に置いてきた」 「なんで?」 「神聖なものだから」  冠は祠堂に残してある。  姫たちがそれぞれ継ぐものだからだ。  兄たちの娘が祠堂に入り、あの冠を受け継ぐ。  天籟国はこれからも脈々と続く。  それが、国だ。そして、それを支えるのが、姫奴だ。  墨はドリューから写真を取り返すと、守り袋にそっとしまい込んだ。 「ムオ殿、ドリュー」  朝賀が声をかけてくる。 「もうすぐ記者が来ます。用意を」 「……え?」  ぎょっとした墨に、朝賀は当然と言った様子で言葉を続ける。 「お召列車のサロンにいる姫の写真を撮る。クリークヴァルト公国の写真家も来ています」
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加