天籟の冠

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「ここに記者が入ると?」 「ええ、ここはパブリックスペースです。王族として対応する、それがクリークヴァルト公国では重要なことです」  朝賀の言葉は、墨にとって悪夢でしかなかった。  姫を晒し者にしろというのか。  椅子に腰かけた姫は、墨を見る。微笑んで首を振る。 (姫に、気を使わせている……)  墨は両手で自分の頬を打った。 「うぉ、すげー音したぞ、痛えだろ」 「当たり前だ。痛いようにやった」 「……変な奴だなぁ」  自分の感傷も、ここでは必要がない。勝手にくよくよすることはない。  姫は、最も大事な姫だということは、何も変わらない。  近くの花瓶に生けてある、大輪の薔薇に手を伸ばす。丹念に棘を抜かれた薔薇のなかから数輪を選び取ると、茎を手折る。 「御髪を」  声をかけると、姫は静かに冠を外し、膝の上に置く。  編み込みまとめていた黒髪の後頭部に薔薇を差し込む。  同色の濃淡で美を表す天籟国の衣装の中では、真っ赤な薔薇は目を惹くだろう。 「とてもお似合いです、姫」  墨は姫に微笑みかけた。  姫ははにかみ、ゆっくりと頷いた。
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