失態の対価

1/3
前へ
/78ページ
次へ

失態の対価

「すまないね、わざわざ来てもらって。ぼくはハンス。ハンス・シュミット。クリークヴァルト公国のアッヘンバル新聞社の記者だ。こっちは上司のエドガー・ハウスホーファー」 「どうも、部下が失礼を働いたようで。ハウスホーファーです」 「失礼とはなんですか! ぼくが殴られたおかげで、こうして独占的に取材を許されたんだですよ、ハウスホーファーさん。感謝してほしいくらいです。アッヘンバル新聞社なんてちいさ~~~~~な新聞社、これだけのスクープなんて、前代未聞ですよ!」  一体自分は何をさせられているのか。  墨は、人払いをされた食堂車の一番奥の席で、自分を待っていたふたりの男を前に、大きなため息をつきそうになった。  発端は当然昼間の騒動だ。  墨が掌底を叩きこんで失神させた新聞記者を、ドリューが背負って記者の客室に連れて行き、朝賀親子と使節団は今見たことを記者団に入念に口止めした。  ──……失態だ。  姫は墨を咎めず、使節団は徹底的になかったこととして処理をした。  墨は部屋の隅に隠れるようにして立ち、ドリューたちが戻るのをひたすら待っていた。  じっと膝を抱えていた墨は、ぽん、と頭を撫でられて、顔を上げた。 「今戻ったよ」 「遅かったな」 「お前のせいだろ」  ドリューはおかしそうに笑った。 「目を覚ましたか?」 「ああ、軽い脳震盪だそうだ。お前すごいな、一発で意識を失わせるなんて」 「……それが姫奴の仕事だ」 「殺さないでくれていてよかった」  ドリューに遅れて、朝賀親子も顔を出した。 「……すまなかった」 「私に謝ることはない。ただ……少し面倒なことにはなったかもしれない」 「……すまない」  面倒なことにならないわけがない。  これから結婚により事実上の同盟国となるものの、今はまだ、同盟関係にはない。  朝賀は苦笑した。 「先方は、警察に訴えると騒いでいる」 「……姫に累が及ぶことは避けたい」 「私もだ。ただ、向こうは和解を申し出てもいる」 「和解? 僕にできることか?」  朝賀と霞は顔を見合わせて、なんとも言えない表情を浮かべた。 「君を警察に突き出さない条件はひとつ、チン・ムオ、君とのディナーを兼ねたインタビューだそうだよ」
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加