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最悪のディナー
食事の味を感じない。
お召列車の食堂車なのだから、当然いい素材を優れた料理人が料理しているはずだ。
真向かいにいるハンスの視線や突然飛んでくる質問に気が散って、食事どころではない。
霞は静かに食事を進め、真ん中の墨は手を一切つけず、墨の食べないものまでドリューがバクバクと食べていく。マナーなんてあったものじゃないドリューの食べ方を注意する気も失せた。
真新しい万年筆を取り出しながら、ハンスは墨に笑いかけてくる。
「君はどうして、昼間あんなに怒ったんだ? 姫に声をかけたことがそんなに大変なことだった?」
「……」
「それとも、あんまりにぼくが格好いいから、驚いた、とか?」
「……」
「姫の名前を呼んだことが、そんなに罪かい?」
「罪だ」
ずっと黙っていたが、それだけは答えた。
ハンスはおかしそうに眉を上げる。
「神の名前だね」
「は?」
「あなたの神、主の名をみだりに唱えてはならない」
聞き取れはしたが、意味は分からない。助けを求めて霞を見たが、ドリューが反応する方が早かった。
「聖書だ。クリークヴァルトはプロテスタントだったか?」
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