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「ああ。君は……見たところ、イングランド……いや、スコットランドかな? ドイツ語の訛りがスコットランドっぽい」
「ああ、正解。ちなみに先祖代々国教会だ」
「スコットランドの護衛がついてるとは、面白いご一行だね」
聖書。墨だって知っている。天籟族が女媧を信じるように、欧州の人間は聖書に書かれたことを信じているということを。
形上、クリークヴァルト公国に到着次第、姫はプロテスタントに改宗すると聞いているが、墨には意味がさっぱり分からなかった。
この世に神の力を体現する存在として生まれた姫の結婚と、宗教がどうして関わるのか。大清や周辺国に嫁いだ姫が女媧を捨てたという話は聞かない。
向こうの役人たちの言う「うわべだけで良い」という言葉も、うまくかみ砕けない。
女媧は存在する。天籟国の王族に天を与え、姫を特別な存在として、天籟国を加護している。
「姫の名前は、誰もが呼んでいいものではない」
「それはずっとそうだった?」
ハンスに尋ねられ、墨はこくんと頷いた。
「僕は選ばれてからずっと、姫のそばにお仕えしている。けれど、はじめて聞いた」
「悔しい?」
「……悔しい? 僕がか?」
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