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墨は目を真ん丸にして驚いた。
「ああ、君がずっと知ることが出来なかったことを、ぼくなんか突然現れた無礼者の恥知らずが、あんなにぽろっと聞いてしまうなんて。悔しいかなって? だから殴った」
「違う」
それは違うと断言できる。
「姫が決めたことならば、従う」
「でも君は実際に殴った。その理由はきっと知っておいた方がいいよ」
「あんた、ロクでもないこと言ったんだろ」
ドリューは口に頬張った肉を飲み込んで、ハンスに話しかけた。
「こいつは姫さまの品位を貶められることが大嫌いだ」
「まぁ、否定はしない。グラマラスとは言えないからね、女性らしさの欠片もないじゃないか、姫の体つきは少年のようだ」
「そうかぁ? まぁ、こっちの人間は女も大柄だからなぁ」
確かに、言われてみればヴェネチアからこっち、ドイツ語を話す女性たちは、大柄に思える。
「でも、姫さまはうつくしい」
「美醜ではなくて、安産型かどうかという話だよ。天籟の王族は子供が多い?」
「……安産型……、天籟の姫が嫁いだ先で子供を産まなかったと聞いたことはないけれど……祠堂の中で一生を過ごす方もいるから、分からない」
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